読書会・座談会過去の開催記録


関東甲信越英語教育学会 研究推進委員会企画

第21回 英語教育「なんでだろう?」座談会
日時:2022年3月6日(日)10:00〜12:00
場所:ZOOM
開催テーマ: 英語教育におけるエビデンス
講師:亘理陽一先生(中京大学)、草薙邦広先生(県立広島大学)、寺沢拓敬先生(関西学院大学)、浦野研先生(北海学園大学)、工藤洋路先生(玉川大学)
参考書籍:亘理 陽一,草薙 邦広,寺沢 拓敬,浦野 研,工藤 洋路,酒井 英樹『英語教育のエビデンス:これからの英語教育研究のために』(研究社、2021年)
コーディネーター:臼倉美里(東京学芸大学)
報告者:加藤嘉津枝(日本大学)

今回の座談会には、大学生、大学院生、中学、高校及び大学の先生方など、総勢過去最多109名の参加があった。会の前半は、コーディネーターの臼倉先生と5名の講師の先生方の公開座談会で、臼倉先生からの質問をもとに講師の先生方にお話をしていただいた。今回のテーマは英語教育におけるエビデンスであるが、エビデンスとはそもそも何かといった基本的な話から始まった。それによると、ここでのエビデンスとは、XすればYになるといった因果関係を示唆する証拠で、日常言語で使われる「証拠」「エビデンス」「根拠」という言葉とは違う、かなり狭義の専門用語ということであった。臼倉先生からは、「英語教育研究に対する著者の先生方の問題意識や憤りを感じながら本を読んだが、何(誰)に対して憤りを感じているのか?」という率直な質問もあり、以下のような興味深い回答があった。
今の日本の英語教育のこれまでの蓄積をもってしても、こういう教え方をしたらよい、と提案できるだけのエビデンスが揃っていないというのが現状だといえるにもかかわらず、「エビデンスに基づいた英語教育の指導法」といったような言葉で、本来エビデンスと呼ぶべきではないものを利用して、指導法の効果を謳っている研究者、出版社のあり方。それを受けて、じゃあ、そういう教え方をしましょうという流れが教育の現場に生まれてしまっていること。こうしたことに警鐘を鳴らしたいとのことだった。
この議論からは、言葉に惑わされて安易にそうした指導法に飛びつかないで、自身の教育現場の状況に合った指導法を丁寧に作り上げていくことの重要性について学ぶことができた。この他にも前半では先生方の間で様々な議論が活発に行われた。
会の後半は、フロア全体からの質問・コメントや研究推進委員から前もって寄せられた質問に対して、講師の先生方が回答するという形で進められた。様々な議論があったが、中でも以下は特に印象に残っている。
「エビデンスを使おうと思った時に、自分に都合のよいエビデンスだけを探して、ピックアップして、都合の悪いものはみなかったこと、なかったことにするということが行われていることに問題がある(エビデンスのチェリーピッキング)。」それを防ぐために、エビデンスを使う人の良心だけに頼るのではなく、研究を蓄積したメタ分析が行われるべきであり、それを参照するようになるのが一つの方向性として望ましい。少なくとも焦点が定まっているものに関しては、恣意的に作為が入り込めないような状況を作ることが研究者の仕事の一つではないか、ということだった。
また、追試(replication)がこの分野であまり行われていない原因として、オリジナリティ、独創性の過度な推奨が挙げられていた。追試は独創性がないということで評価されないままだと、常に先行研究とは異なる新しい指導方法や測定方法を用いることになり、研究が統合されて積み重なっていくことはなく、メタ研究もできない。ここが大きな問題であり、学会の口頭発表や論文査読において過度な独創性を求めることはやめるべきだというお話だった。他にも貴重なお話を数多く聞くことができ、今後の研究の方向性を考えていくにあたり、とても学ぶことの多い座談会だった。


第18回 出張!英語教育何でも読書会
日時:2021年7月31日(土)10:00〜12:00
場所:ZOOM開催
テーマ:「大学入試改革」
課題図書:山村 滋、濱中 淳子、立脇 洋介 著(著)(2019)『大学入試改革は高校生の学習行動を変えるか ?首都圏10校パネル調査による実証分析?』ミネルヴァ書房
コーディネーター:臼倉美里(東京学芸大学)・加藤嘉津枝(日本大学)
報告者:駒形知彦(千葉県立松戸国際高等学校)

今回の読書会には、大学生、大学院生、現職の高校及び大学の先生方の総勢15名の参加があった。今回のテーマは大学入試改革であるが、その背景には、大学生・高校生の学力低下問題があり、これまでの議論で、その原因の1つが、特に学力中間層の学習時間の短さであると指摘されている。まず加藤先生、臼倉先生から今回の課題図書の概要をご説明いただき、その後3~4名程度のグループに分かれ、課題図書の内容や大学入試改革、生徒の学習行動などについて意見交換や疑問点の共有を行った。
全体のディスカッションでは、教育社会学を専門とする参加者の先生から大変貴重なご意見もいただいた。今回の調査はパネル調査という形式を取り、非常に詳細なデータを収集し分析している。これは一般的なアンケート調査に比べ何倍もの労力と時間を要するものである。また強調すべき点として、研究目的に従って学校を選定している点がある。研究目的を設定する前に学校を選定しているケースが存在するのだが、この研究では目的を設定した後に「飛び込み」で学校へ依頼し、調査を行っている。本研究は、高校生の学習行動に影響を与える数多くの要因を調査し、断片的な事項と成績の関係ではなく、総合的に生徒の学習行動を分析している。この点においてとても希少性が高い。一般的にテストの結果とそれに対する学習や指導の関係性が1対1で調査されることが多い。しかし、本研究においては、進学中堅校と進学校という観点での区別だけでなく、生徒の人間関係や部活動、通塾日数、また入試方法志向(一般、推薦等)や特定の時点での勉強時間などが包括的に分析されている点が大変有意義である。高校生には大学入試以外の数多くのインセンティブが存在するため、それらを考慮して学校生活や学習行動がどのように営まれるのか考える必要がある。またこの調査結果は一般可能性が高く、今後学校現場で活用できる知見が散見される。また高校後半期にどれだけ学習に打ち込めるのかは前半期の学習経験に大きく左右されることが研究から分かり、前半期に学校や教員がどのように生徒の学習習慣を形成していくべきかという話し合いがなされた。学力中間層をどのように押し上げていくかが課題である。今回の読書会を通して、改革の核となる問題について多方面から大変参考になる意見を伺うことができた。今後改革によって波及効果が生まれ生徒の学習行動を変容させることは大いに可能であると考えるが、現状で実施し得るカリキュラムや授業の改善を通して生徒の勉強に対する姿勢を身に付けさせ、そして実力そのものをつけさせたい。制度と学習について熟考できる大変有意義な読書会であった。


第17回 出張!英語教育何でも読書会
日時:2021年3月7日(日) 13:00~15:00
場所:ZOOM開催
テーマ:「文法指導」
課題図書:『高校英語授業における文法指導を考える 「文法」を「教える」とは?』金谷憲(編著) アルク
コーディネーター兼講師:臼倉美里先生(東京学芸大学)・ 鈴木祐一先生(神奈川大学)
報告者:駒形知彦

今回の読書会への参加者は現職の先生方、また大学生や院生など総勢30名であった。
臼倉先生より、ラウンドシステムを行う先生方、TANABU Modelを行う先生方へのインタビュー結果をご報告いただいた。この先生方は、『授業中に生徒が「たくさん」英語に触れ、使う時間を確保するために、教師は文法の説明を「あまり」せず、説明を行う場合は活動を行った「後」(活動先行)に「整理」する』という特徴がある。文法の導入とその使用には時差があるが、定着テストによると確実に文法が定着していることが確認された。生徒は、以前は丸暗記したものをただ言う印象だったが、徐々に学んだ表現を使おうとし、発信力がついているようだ。
鈴木先生からはSLA研究における文法指導の知見をいただいた。活動先行・説明後出しという学習を通した言語習得について調べた研究は無いが、英語圏での英語の母語習得を調査した研究で、解説がなくても英語に沢山触れることで習得が可能だと分かった。「指導」については今回のカリキュラムのように繰り返しが重要で、徐々に蓄積されルールが構築される「使用依拠モデル」をご紹介いただいた。
両先生から挙げられた共通の例として「ミルフィーユ」がある。これは機械的な繰り返しだけではなく、意味のやり取りを持つことが大切だという比喩である。パイ生地(機械的な練習)だけではミルフィーユはできず、つなぎ合わせる「クリーム」(意味のあるやり取り)のおかげで、とても美味しい(英語力がつく)ものになる。
最後の質疑応答では、活動時間の捻出方法、語彙指導のタイミングへの質問があった。TANABU Modelでは、教科書のレベルを下げることで理解にかかる時間を短縮し、活動へ割ける時間を増やすという対策がなされた。2つの実践の共通点は、最初から本文をすべて生徒に理解させようとするのではなく,様々な活動を通して繰り返すことで,徐々に内容を理解させれば良いという考え方に基づいているということである。そのため、最初から語彙を導入するのではなく、やり取りを通して生徒が意味を把握していく。例えばTANABU Modelでは、レッスンの中盤に語彙の意味の確認および定着活動が組み込まれている。
また、活動先行・説明後出しという方法は文法をどう認識しているのかという質問があった。これは文法を軽視しているのではなく、言葉を扱うことは文法を扱うことであるので、やり取りを通して文法に沢山触れさせる狙いがあるという説明があった。
今回紹介された実践は驚異的な英語力向上をもたらしており、大変示唆に富んでいる。これらから得られる知見を基により良い指導法を追求していきたい。


第20回英語教育「なんでだろう?」座談会
日時:2021年1月10日(日) 10:00~12:00
場所:ZOOM開催
テーマ:高校生のライティング力はどう伸びていくか 1年間の経年変化からわかること〜名詞句に着目して〜
コーディネーター:伊藤泰子(神田外語大学)・加藤嘉津枝(日本大学)
報告者:冨水美佳(昭和女子大学附属昭和中学校・昭和高等学校)

緊急事態宣言下、1年ぶりとなる座談会がZOOMを使用して開催された。今回は高校生の名詞句把握の力がどう伸びていくかについて、ある私立中高一貫校で行ったKBテストとライティングテストの結果の研究報告をもとにしてグループごとにディカッションを行った。参加者は中高教員や大学院生など25名であった。忙しい中で、多くの方々にご参加いただくことができた。
座談会では、初めにコーディネーターの伊藤先生から研究推進委員会が近年継続的に行ってきた研究の説明があった。この研究の目的はテーマの通りである。研究対象校では約3年間に渡り定期的に、名詞句把握能力を測るKBテスト(Koukousei Billy’sテスト)とパフォーマンスを測るライティングテストを行い、その正答率の変化を分析した。KBテストとは、その前身となるBilly’sテスト(中学生の言語習得の発達段階を調査するために開発されたテスト)の対象を高校生に変え、どのくらい英語を使いこなせるのかを名詞句把握の力に焦点を当てて開発されたものである。テストでは、名詞句把握の難易度が3段階に分けられており、動詞の落ちた不完全な英文を見て、正しい位置に動詞を当てはめる、というものである。今回の研究結果は、経年変化で学年を追うごとに緩やかに正答率が上昇していくという結果となった。特に名詞句把握の難易度の低いものは正答率の伸びは大きかった。次に、コーディネーターの加藤先生からライティングテストについての説明があった。このテストでは全般的に英語運用能力がどの程度であるかを、研究推進委員会で議論・作成されたルーブリックに基づいて6点満点で採点された。最終的にKBテストとライティングテストの相関関係を分析すると、一定の相関関係があることがわかった。さらに、ライティング解答の中で、節による後置修飾を用いた名詞句を使用している生徒と使用していない生徒とでKBテストのスコアを比較した。その結果、使用していた生徒のスコアの方が使用していない生徒のスコアよりも高いことがわかり、節による後置修飾を用いた名詞句に関して、把握能力とパフォーマンスとの関係性もうかがえた。
研究内容発表後は、ZOOM機能のブレークアウトセッションを用い、グループに分かれてディスカッションを行った。ディスカッションの内容は、KBテストの開発やライティングテストのデザインについてなど、研究の改善に関する意見や議論が多くなされた。KBテストの改善点としては、問題文の不自然さに関するご指摘をいただいた。テストの意図がどこにあるかも重要であるし、使用する英文にも意味を持たせようとするととても難しい。問題解答の際に、高校生の頭の中で「名詞句の把握」と「英文の意味の理解」がどう行われているかを見る問題の作成が求められる。また、ライティングテストのデザインについての議論では、KBテストだけでは測れない英語力を測るために行われたテストだが、KBテストが名詞句把握の力を測るものであるならば、ライティングテストでも、後置修飾を使用させるように操作するなど、もう少し設問を操作するか、解答例を示すべきではないか、とのご意見もいただいた。
今回の座談会では、研究に関して様々な視点でここでは書ききれないほど多くのご指摘・ご意見をいただくことができた。考慮すべき点が多くあり、テスト開発の難しさを改めて実感した。今回の内容は、今後の研究のさらなる発展につながるだろう。


第19回 英語教育「なんでだろう?」座談会
日時:2019年3月9日(日) 15:00〜17:30
場所:日本大学7号館7055教室
テーマ:文法知識の習得について考える
講師:酒井英樹先生(信州大学 教育学部 教授)
コーディネーター:伊藤泰子(神田外語大学)
報告者:臼倉美里(東京学芸大学)

穏やかな春の日に,会場となる日本大学の教室には13名の参加者が集まり,講師の酒井英樹先生のお話に耳を傾けた。アットホームな雰囲気の中で,酒井先生のご講義の間に質疑応答の時間を適宜設けていただく形で座談会は進行した。
ご講義の中で酒井先生は,文法知識の習得を考える際に特に留意するべきポイントを2つ挙げてくださった。1つ目は,「知っていることと使えることは違う」ということである。ある知識を知っているからといって使えるとは限らず,その逆もまたしかりである。例えば,1990年代当初の研究(Green & Hecht, 1992)が示すように,ある英文が文法的に正しいかどうか判断ができること(使える状態)と,何が間違っているかを説明したり,正しい形に修正できること(知っている状態)は,必ずしも共起しない。2つ目は,「習得基準」の設定である。何がどこまでできたら,ある文法知識を「習得した」とみなすべきかについては,これまでも議論されてきている。例えば,義務的生起文脈における正確さが一定以上(例えば90%以上)の場合に「習得した」とみなす,という考え方がある。これに対して「出現基準」という考え方もあり,これは,ある文法事項を「使い始めたとき」が「習得したとき」と捉える考え方で,例えば処理可能性理論(Pienemann)では,ある文法事項が,複数の異なる文脈において使われた時に「出現した」とみなし,習得が始まっていると捉える。正確性のみに焦点を当てるのではなく,たとえ誤りがあっても学習者がその文法事項を使おうとしている状況に目を向けることで,文法知識の習得を,より広く深く研究することができる。
ご講義の後半では,酒井先生がこれまでに取り組んで来られた研究についてお話があり,その成果として,(1) 処理可能性理論に基づく「上の方のステージの処理ができる学習者はそれより下のステージの処理もできる」という傾向が,(第二言語環境で学んだ学習者のみでなく)日本人英語学習者のように,外国語環境で学んだ学習者の間でも見られ,(2)教師が明示的に説明した文法知識が,そのまま学習者に習得されるとは限らず,学習者はときに自身のことばで独自のルールを確立することがある,といったことが報告された。
さらに終盤では,酒井先生の最新の研究についてもご紹介いただいた。中学生の文法知識の習得を経年変化で調べた研究で(出版準備中),文法性判断課題を用いた調査の結果から,文法的に不正確な文については,処理可能性理論に即した結果が得られたが,文法的に正しい文については,同理論に即さない結果が得られたと言う。この点について参加者から,文法知識の習得における明示的知識の必要性について質問が出て,酒井先生からは,ルールを説明できる必要がある文法事項とそうでないもの,教師の説明が習得の役に立つものとそうでないものがあって,今後の研究によりその弁別がさらに進むことが期待されること,そして,ある文法事項の知識があることが,他のインプット処理における気づきを促す可能性があるのではないか,というコメントをいただいた。また,別の参加者からは,文法性判断課題の解答時間に時間制限を設けて調査を行えば,異なる結果が出たのではという指摘があり,酒井先生からは,今回は調査実施上の制約があってそれが叶わなかったとのお答えがあった。さらに,定型表現の一部を入れ換えて話せることは,文法知識の習得が一歩進んだと捉えられるかという質問に対しては,入れ換えができているだけでなく,「間違った場所でその定型表現を使っていない」という証拠も必要であるとのお答えがあった。
今回の座談会を通して,文法知識の習得について,多面的,多角的に捉えるヒントをたくさんいただくことができた。酒井先生の今後のご研究成果を楽しみに待ちたい。


第16回 出張!英語教育何でも読書会
日時:2018年12月2日(日)10:00〜12:00
場所:筑波大学附属高等学校
テーマ:「スピーキング指導」
課題図書:上山 晋平(著)(2018)『はじめてでもすぐ実践できる!中学・高校英語スピーキング指導』学陽書房
コーディネーター:佐藤選(東京学芸大学大学院)・高木哲也(筑波大学附属高等学校)
報告者:駒形知彦(埼玉県立与野高等学校)

今回の読書会のテーマは「スピーキング指導」である。関心を寄せる小学校、中学校,高校,大学の教員および大学院生など総勢17名が参加し、ディスカッションや実際にスピーキング活動を行い活気のある会となった。
まず,コーディネーターの佐藤先生から昨今の英語教育を取り巻く現状を踏まえ課題図書の概要の説明があり、その後3〜4名のグループに分かれ、気になった点や疑問に思った点について話し合いが行われた。グループでの意見交換ののち各グループで出た意見や疑問を全体でシェアし、さらに全体でのディスカッションが行われた。
全体のディスカッションにおいて特に話題となったのは「生徒が英語を話したくなる15のコツ」に挙げられているものの1つである「思い切って「えいやっ」とやってみよう」に関することである。実際に参加者の先生方の今までの授業での取り組みを振り返ると、生徒によってはレベルが高すぎたり、スピーキング活動の前段階に特に活動が無く、いきなりスピーキングをさせる活動をしても上手くいかないことがあったとの報告があった。そのため「えいやっ」という気持ちで活動に思い切って取り組んでみるという切り替えも大事であるが、学習者のレベルに関わらず継続して行うことが非常に大切であるという意見が数多く出された。加えて、最初からたくさん発話することは望めないため、単語やフレーズ単位で答えられる活動から始め、その後に1文、2文と徐々に量を増やし、スモールステップを踏むことが大切だという意見が出た。また話す内容に関しては、教科書の内容を学んだ後やトピックを与えた状態でそれに対する意見を英語で話すという手順を踏むこと、さらには、内容によって話しやすいものやそうでないものがあるため、スピーキングの活動に適切なものを選ぶ必要があるという意見も出された。また考えられる発展的な方法として、あるテーマを設定し(例:理想のデート)、それについていくつかの観点(例:デートの相手、場所、食事、など)を各授業でのトピックとして選びそれについて意見を考え発表し、最終的に学期の終わりなどのタイミングでそれらをまとめて一つの物語を作り上げ発表すると興味深い活動となるのではないかという意見があり、参加者から多くの共感を呼んだ。
活発な議論の後、コーディネーターの高木先生から課題図書で紹介されているスピーキング活動のうちから3つのメニュー「ワードカウンター」、「30秒クイズ」、「描写」の説明があり、実際に参加者全員で取り組んだ。実践後それぞれの活動について感想や意見が述べられた。「ワードカウンター」の活動に関して、fluencyを高めるための練習活動として効果的であろうという意見が挙げられた。その際にできるだけたくさん話すように指示するだけでなく、同じ内容・トピックに関するものを繰り返し行うことでfluencyを高めることができるのではないかという意見が出た。いずれの活動においても、回数を重ねるごとにfluencyが高まれば、学習者のモチベーションの向上も期待できるだろう。
最後に全体を通して意見交換が行われた。授業数が限られている中で、outputにつなげるためのinputの量を増やす方法について疑問が投げかけられた。課題図書にお勧めのウェブサイトや書籍が紹介されているが、授業内だけではなく授業以外でスマホ等を活用して最大限inputを増やす必要があるという意見が挙げられた。AIの発展によりできることが今後増えるだろうという期待の声も伺えた。
また、スピーキングの練習や音読は家庭で行わせることは難しいため、授業の中で話す機会をたくさん持たせるべきだという議論にもなった。しかし授業内においても実施が難しい現実があるため、その壁を乗り越えなければならず、そのために授業の展開方法やカリキュラム等を工夫しなければならないという意見が出された。学習指導要領の改訂や高校・大学入試の転換に伴う「英語を使う能力」の育成に関心が高まる中、明日の授業で早速使えそうな活動を知ることができ、さらには自身の英語指導観を再考する良いきっかけとなる読書会であった。


第18回 英語教育「なんでだろう?」座談会
日時:2018年2月18日(日) 10:00〜12:00
場所:目白研心中学・高等学校
テーマ:テスト作成
講師:小泉利恵先生(順天堂大学)
コーディネーター:伊藤泰子(神田外語大学)・高木哲也(東京家政大学附属女子高等学校)
報告者:鈴木祐一(神奈川大学)

2月18日、第18回座談会が目白研心中学校・高等学校で行われた。昨年11月の読書会で扱った小泉利恵・印南洋・深澤真編(2017)『英語テスト作成ガイド』大修館書店(以下、『ガイド』)を引き続き課題図書とした。 今回の座談会には、課題図書の編著者である順天堂大学・准教授の小泉利恵氏をお招きし、講演を行っていただいた。この場をお借りし、小泉氏に厚くお礼を申し上げたい。参加者は大学、中高の教員、大学生および大学院生など19名。活発な議論が2時間以上にわたって行われた。 課題図書は、書名に『ガイド』という名前があるように、英語テストの作成方法に悩んでいる英語教師を導く良書である。小泉氏は、英語テストのマニュアル本(How to本)だけにはしたくないという思いのもと、第1章の【テスト添削編】で実際のテスト具体例を多く提示しつつ、それとは別立ての第2章の【理論編】を用意されている。この2つの章を何度も行き来しながら、理論と実践の両面から、英語テスト作成に関して理解を深めることができる構成となっている。
小泉氏の講演では、テスト作成が具体的にわかる本が現状ではほとんどないということから、雑誌『英語教育』での1年間の連載をもとに本書を作成されたという説明があった。そして、現職の中高の教員が実際に作成した定期テストで使った問題を提供してもらい、執筆者で添削を行い、どのような点を焦点化すればいいかという観点から紙面が作られた過程をお話いただいた。実際に、第1章では、様々な種類のテストの実例とともに具体的な改善例が紹介されている。
『ガイド』の要旨として、テスト細目を作ることの重要性を小泉氏は挙げられた。テスト細目とは、そのテストの青写真のようなもので、1. テストの目的、2. テストで測りたい能力、3. テストの構成、4. テスト形式、5. 採点方法などが明記されているものである。テスト細目に関しての説明の後、スピーキングテストを例として、どのようなタスク形式が考えられるかをご説明頂いた。例えば、制限産出型(絵描写など)と自由産出型(interviewなど)が大きなカテゴリーの違いとしてあり、それぞれの教師・生徒の状況に応じて、選んでいくことの重要性が説かれた。
さらに、スピーキングテストなどの産出テストでは、評価基準が問題になる。採点基準は大きく分けて、(1)総合的と(2)分析的評価があるが、採点に慣れないうちは、 (1)から始めて、徐々に(2)のように細かい採点方法を採用していくことの利点もある。特に、分析的評価をすることで、生徒の英語力に関して具体的なフィードバックを与えることができ、良い波及効果が期待できるかもしれない。
講演の後半では、ワークショップ形式で、大学生のペア型の会話テストの実際のパフォーマンスを見ながら、採点体験をした。課題は1. 今まで扱ったトピックの中からのテストと2.初見のトピックでの会話をさせた。評価基準は、 (a)タスク達成度、(b)流暢さ、(c)やりとりの自然さ、それぞれに3段階評価を与えた。小グループで採点結果を議論しながら、問題と挙がった点を参加者で話した上で、小泉氏に講評いただいた。
講演の後も、参加者からたくさんの質問が出て、活発な意見交換の場となった。例えば、指導内容とスピーキングテストの種類の関係、スピーキングテストの頻度はどのくらいがいいのか、生徒ペアの組み合わせの違いによるテスト得点への影響をどのように減らせるか、スピーキングテストの実施時間の長さ、採点基準や観点の細かさに関して、中高の現場の先生を中心とした参加者からの質問が出た。そのたびに、小泉氏から丁寧に一つ一つ解説を補足していただき、氏のテスト研究と実践に対する真摯な姿勢を間近に感じることができた。
また、今後の方向性として、小泉氏は(a)指導内容にもっと寄り添ったテスト作成・改善案を提示すること、(b)ワークショップ、採点トレーニング、ビデオ教材の作成、(c)教科書内容に基づいた形でテストする方法の充実などを挙げられ、これからの小泉氏の研究のさらなる発展に期待が寄せられる。また、『ガイド』には含められなかったより詳細な情報は、小泉氏のHPに資料が載せてあるので、そちらも参照できるようになっている。昨今の英語テスト作成に関する関心の高まりの中、課題図書の著者ご本人に直接お話を詳しく聞けて、大変有意義な会となった。


第15回 出張!英語教育何でも読書会
日時:2017年11月26日(日)13:00〜15:00
場所:目白研心中学・高等学校
テーマ:「英語テスト作成」
課題図書:小泉利恵,印南 洋, 深澤 真(編)(2017)『実例でわかる 英語テスト作成ガイド』大修館書店
コーディネーター:臼倉美里(東京学芸大学)・伊藤泰子(神田外語大学)
報告者:加藤嘉津枝(日本大学)

今回の読書会には,英語テスト作成に関心のある中学,高校,大学の教員および大学院生など12名が参加した。まず,3〜4名のグループで,第1章[テスト添削編]の中・高リスニングテストの問題点について話し合うようにコーディネーターの伊藤先生より指示があり,話し合いが行われた。その後,各グループから話し合った内容が報告され,さらに全体でのディスカッションが行われた。
実際のテストを用いてのディスカッションでイメージが掴めたところで,伊藤先生より第2章[理論編]で取り上げられた4種類のテスト(1. 熟達度テスト,2. 到達度テスト,3. 診断テスト,4. レベル分けテスト)について説明があった。
その後,4つのテーマ(1. テストの種類,2. テストの作り方,3. 観点別評価・CAN-DOリストとの関係,4. テストに必要な要素:妥当性,信頼性,実用性)ごとにまとめられたトピックのうち興味のある内容について,再び各グループで話し合いを行った。各グループでの話し合いの後,フロア全体で「定期テストでは高い点が取れても,模擬試験では思うほど点が取れない生徒がいるのはなぜか1-1」「「良いテスト」とはどんなテストか4-1」などについて活発なディスカッションが行われた。ディスカッションでは,「模試やTEAPなどの熟達度テストは対策するものではないのではないか」「テストはやりっぱなしではなく,テスト後に授業や宿題に関連づけて生かすべき」などの様々な意見が挙がった。さらに,英語では4技能の能力を測る新入試が次期高校1年生からスタートするということで,参加者の間で関心が高く,その対策などについて話が及んだ。
全体でのディスカッションの後,後半はコーディネーターの臼倉先生より総合問題についてと教科書本文を問題として使うことについて説明があった。これらのテーマについても3〜4名のグループディスカッションが行われた。グループの中では参加者の先生が持参されたテストの見本を参考に話し合いをするなどして,活発に意見が交換された。さらに,フロア全体でのディスカッションを行い,最後に臼倉先生より暗記について,「丸暗記だけで正解してしまう問題は避けるべきではないかという意見もあるが,場合によっては,特に中学校のレベルでは暗記すること自体に意味があることもあり,暗記だけで対応できる問題を出題することは一概に悪いことではないのではないか」という意見が述べられた。
今後の座談会では,引き続き英語テスト作成について,今回扱いきれなかったテーマ等を扱うとのことで,テスト作成に関心のある多くの方々の参加を期待したい。


第17回 英語教育「なんでだろう?」座談会
日時:2017年2月19日(日)
場所:目白研心中学・高等学校
テーマ:高校生に中学英語はどのくらい定着しているのか?第2弾 〜高校生を対象としたミニ・リサーチの結果から考える〜
発表者:研究推進委員会
報告者:伊藤泰子(神田外語大学)

今回の座談会は、昨年11月の第16回座談会と同じテーマで、その第2弾としての開催となった。英語力の基礎となる中学英語を高校生はどの程度使いこなせているのかを把握するために行われたミニ・リサーチの結果をもとに、参加者でディスカッションを行った。今回も前回と同様に、臼倉美里委員長(東京学芸大学)と鈴木祐一委員(神奈川大学)を中心に発表が進められた。当日は中学・高校・大学の教員だけでなく、個人で教室を開いている方や教科書会社の編集者など、合計11名の参加となった。
ミニ・リサーチでは、私立の中高一貫校の高校3年生約80名に5種類のテスト(リスニング、速読、ディクテーション、絵描写、和文英訳)を受けてもらった。前回の座談会では5つのテストのうち、リスニング、速読、ディクテーションの結果とそれに関するディスカッションを行ったが、今回の参加者は、委員会のメンバーを除いて全員が前回の座談会には出席していなかったので、会の前半で前回の座談会の内容を復習した。
まずリスニングテストに関しては、中学1、2、3年生向けのリスニング教材を使ったテストの一部を参加者に受けてもらい、その結果を予測してもらった。予測の数値はグループによって様々であったが、実際のテスト結果はおよそ7割の正答率であった。
速読テストは、中学3年生の教科書の英文を理解しながらどれくらいの速度で読めるかを測った。今回の高校生80名の中で、100WPM (words per minute)を超えた生徒がどの程度いたか、ということを予測してもらったが、WPMの計算式の複雑性もあってか予測はなかなか難しかったようだ。結果では、100WPMを超えた生徒は3割弱で、平均は83WPMであった。ちなみに、ネイティブスピーカーはこのレベルの英文であれば、400WPMの速さで読めるそうだ。
ディクテーションテストでは、全問正解者は80名中3名にとどまったが、日本の高校生358名に同じディクテーションテストを実施した結果、その場合も全問正解者が3名であったことを考えると、このミニ・リサーチの対象となった高校生は、3年生ということもあり、比較的英語ができるということがうかがえた。
座談会の後半では、前回の座談会では紹介しなかった和文英訳テストと絵描写タスクについての結果発表とそれにもとづくディスカッションを行った。和文英訳テストではディクテーションテストで使用した英文の中から10問が出題された。今回調査対象となった高校3年生の平均得点は3.58点(10点満点)で、この数字はディクテーションの平均点(8.0点/18点満点)よりも低かった。これはおそらく、ディクテーションでは「音声」によるヒントが与えられた上での作文力が試されていたのに対し、和文英訳テストではヒントなしでの作文力、つまり、より負荷が高い状況での作文力を試されていたからではないかという議論になった。
絵描写タスクは2種類あり、街並みを描いた1枚の絵について5分間でできるだけたくさん英文を書くという絵描写タスク1と、6コマ漫画に描かれた物語を15分間で再生するという絵描写タスク2の調査結果が紹介された。絵描写タスク1では、今回のリサーチに参加した高校3年生は5分間で平均4.6文ほどの英文を書いていた。また、絵描写タスク2については、同じ高校3年生の75%が、6コマ漫画に描かれた物語のエッセンスを15分以内に英語で再生することができ、平均語数は73.4語であった。絵描写タスク2について、座談会の参加者から、登場人物を指すのに固有名詞(Nancy、John、Hana)を与えている理由は何かという質問が出て、これに対しては、文章中での人称代名詞の使用状況を調べるねらいがあったという説明があり、さらに今回対象とした高校3年生の中には、読み手を意識して、初出のNancyやJohnについて、”One day, there is a girl called Nancy.” や”At the airport, John a strange man, was watching her suitcase…” のように表現できている生徒がいたことが紹介され、つながりのある文章を書く力を調べる際には、このようにやや上級の表現力にも注視するとおもしろいのではないかという意見が出た。
最後に、今回のリサーチの今後の方向性として、英語以外の教科の成績との関係性の調査や、中学英語の定着を目指した高校での具体的な指導法の提案を望む声が聞かれた。


第16回 英語教育「なんでだろう?」座談会
日時:2016年11月20日(日)
場所:目白研心中学・高等学校
テーマ:高校生に中学英語はどのくらい定着しているのか? 〜高校生を対象としたミニ・リサーチの結果から考える〜
発表者:研究推進委員会
報告者:加藤嘉津枝(日本大学)

今回の座談会は,研究推進委員会で行った,高校生に中学英語がどのくらい定着しているかについてのミニ・リサーチを元にして,臼倉美里委員長(東京学芸大学)と鈴木祐一委員(神奈川大学)を中心に進められた。当日の参加者は大学および中高の教員と学生を合わせ総勢15名であった。
臼倉氏はまず,「中学英語=簡単」であると一般に思われてしまっていること,しかし実際に日本の高校生が中学英語をどの程度使いこなせているかについてはほとんどリサーチされていないこと,特に同一の高校生がリスニング,リーディング,ライティング等の複数のテストを受験した研究がないことを指摘し,今回のミニ・リサーチがそうした研究であることを紹介した。実験テストは,1)リスニング,2)速読テスト,3)絵描写テスト(2種類),4)ディクテーションテスト,5)和文英訳テストの5項目,6種類あり,題材は全て中学校の英語教材から選出している。参加者は,私立の中高一貫校の高校3年生約80名であった。
リサーチの概要が述べられた後,鈴木氏が実際のテスト紹介を担当した。最初にリスニングテストの説明があり,参加者は中学1,2,3年生の3レベルのリスニングテストの一部を受けた。テスト後,全体の平均が100点満点で何点程度であったかなどをグループに分かれて予測し,全体でシェアをした。ミニ・リサーチの結果では平均正答率が73%だったが,T/F問題であることから勘で答えても50%は取れるということで,理解度はそれほど高くはなかったことが指摘された。
次に速読テストの1つを実際に体験した。このテストでは,参加者がそれぞれのペースで英文を読み,読み終わった時点で黒板やスライドに出ている経過時間を各自が記録し,その後英文を見ないで英文に関する質問に答え,読むのにかかった時間と問題に対する正答率からWords Per Minute(WPM)(=内容を理解しながら1分間に読み進められる語数)を測定する。参加者は自身のWPMを確認した後,グループごとに参加高校生の平均WPMを予測したり,速読テストについて話し合ったりした。参加者からは100WPMなど,かなり高い予想数字が出ていたが,実際の参加高校生の平均は83WPMであり,150WPM を超えた高校生は1%にも満たなかった。
最後にディクテーションテストを体験した。このテストでは英文を聞いた後に,電子音が鳴り,それが鳴り終わった後に英文を書き始める形式で実施された。このような形式を採用したのは,英文の意味処理をせずに聞こえた英単語を丸暗記して解答することで正解できてしまう受検者がでないようにするためである。ディクテーションを体験後,全問正解者数や平均正答数についてグループごとに話し合った。結果は全問正解者数も正答率も予想より低く,全問正解者数は0人であり,平均正答数は18問中8問であった。
最後に臼倉氏は,今回のリサーチ結果では,中学英語が自由自在に使えるようになるには多くの練習と時間がかかることが示唆されていると述べ,中学英語の定着は中学校だけで完了するものではなく,高校でも段階的な繰り返し練習と時差を考慮した指導(以前に学習したことについて,少し間をあけてテストするなど)が必要ではないかと締めくくった。


第14回 出張!英語教育何でも読書会
日時:2016年2月28日(日)15:00〜17:30
場所:昭和女子大学
課題図書:門田修平(2014)『英語上達12のポイント』 コスモピア
コーディネーター:伊藤泰子(神田外語大学)・鈴木祐一(神奈川大学)

2月28日、第14回読書会が昭和女子大学で行われた。昨年11月の座談会に引き続き、今回の読書会にも課題図書の著者である関西学院大学・大学院教授の門田修平氏に遠路遥々、足をお運びいただいた。この場をお借りし、門田氏に厚くお礼を申し上げたい。参加者は大学、中高の教員、大学大学生および大学院生など13名。活発な議論が2時間以上にわたって行われた。
課題図書である『英語上達12のポイント』には、最新の第二言語習得研究の成果に基づく学術的視点から英語習得を成功に導くためのポイントが的確にまとめられている。研究推進委員会の本年度のテーマ、「自動化」を考える上でも、大いに参考になる1冊である。
読書会では、はじめにコーディネーターが12のポイントについて説明し、その後、実践のアイディアや疑問点についての話し合いや意見交換が小グループで行われた。各グループで大きな論点となったポイントについては、門田氏から補足的に解説が加えられた。
ポイント1「大量のインプットが大事」には多くの意見や質問の声が集中した。アウトプットをするにはインプットが必要であり、適切なレベルのものを多く与えた方がよい。これに異議を唱える人はいないだろう。しかし、大抵の場合、インプットされた事柄がすぐにアウトプット可能な状態にはならない。このことは誰もが経験上知っている。インプットとアウトプットを繋げる仲介役として、門田氏はプラクティスの効果を強調する。確かに、プラクティス、つまり理解した事柄の繰り返し練習が指導の現場で手薄になっているケースが多いように思われる。プラクティスを補うための有効な手段として、本書ではシャドーイングや音読が採り上げられている。これらを繰り返すことで、意識的な覚え込みに頼らずとも、自然な形で英語が頭に入ってくるとされている。
これらの活動に代表されるような繰り返し反復練習は、流暢性や自動性を獲得するために不可欠である。しかし、1時間の授業で反復練習に長時間を費やすことは簡単にはできず、工夫が必要だろう。
ポイント7「英語能力の自動化を目指そう」では、自動化を目指すための授業内活動について議論された。ここで1つの提案として出されたのは、授業では学習内容の提示とインタラクティブな活動、つまり提示(presentation)と産出(production)を中心に行い、それ以外の要素、特に理解(comprehension)や練習(practice)に関する活動はできるだけ家庭学習に組み込むというものだ。これにより、各自で出来ることを授業から削ぎ落し、相手が必要なコミュニケーションに多くの時間を充てることが可能になる。門田氏はこれを実現する手段として、反転学習の可能性に触れた。
ポイント9「多読で留学並みの潜在学習を実現」については、多読や多聴の効果が論点となった。シャドーイング同様、多読や多聴を通じて同じ語彙や文構造に何度も出会うことで繰り返しの効果が期待できることは広く認められている。一方、多読に精読を組み込んだところ、精読の干渉を受けて多読の効果が減少したという研究結果もある。精読は語彙や文法などの顕在知識をつける方法として位置づけるべきで、目的に応じた指導・学習方法の選択の重要性を門田氏は指摘している。
自動化のメカニズムが解明され、効果的な学習法や指導法が特定されれば、外国語としての英語の習得がより容易になることが予想される。今後の更なる研究成果に期待したい。(報告 後上雅士(早稲田中学・高等学校))


第15回 英語教育「なんでだろう?」座談会
日時:2015年11月29日(日)
場所:昭和女子大学
お題:英語習得・学習における自動化の役割
講師:門田修平先生(関西学院大学)

本年度の座談会は講師に関西学院大学の門田修平氏を迎え、英語習得・学習における自動化をテーマにお話をいただいた。流暢性(自動性)の獲得は多くの学習者が目指すところであり、そのメカニズムの解明は英語教育界の大きな関心事である。心理言語学研究の成果に基づく効果的な学習法、指導法を提案する門田氏。当日の参加者は大学および中高の教員と学生を合わせ30名に及んだ。
門田氏はまず、「英語学習、習得における流暢性とは何か?」という問題を採り上げた。流暢性には認知的流暢性、発話の流暢性、流暢性についての知覚があり、認知的流暢性(cognitive fluency)は流暢な発話を支える認知基盤として重要な役割を果たしている。認知的流暢性を実現するためには「心理言語学的能力(psycholinguistic competence)」と呼ばれる処理能力が必要だ。高い心理言語学的能力を持つ学習者は、速く、安定した、柔軟な処理、コミュニケーションに支障をきたさないよう、一定時間内に反応すべく自動的かつ流暢に処理を行うことができる。門田氏は流暢なやりとりを行うには1秒以内の反応が必要だと言う。
では、心理言語学的能力を高めるにはどうしたらよいのか。話題は記憶の問題へと移行する。我々の記憶を顕在記憶(explicit memory)と潜在記憶(implicit memory)に分けて考えた場合、流暢性において重要な役割を果たすのは潜在記憶だ。第二言語による流暢な発話は、主に無意識の記憶によるものだからだ。門田氏は、流暢なスピーキングは主に「構造的(統語的)プライミングによる文構築(primed sentence production)」と「フォーミュラ連鎖(定型表現)をもとにした文構築(formulaic sentence production) 」から成り立っていると言う。これらの潜在記憶に基づく文構築は、統語規則に従って単語レベルから文を組み立てるような、顕在記憶依存型の認知的プロセスを軽減してくれる。つまり、顕在記憶を潜在記憶に効率的に転換し、潜在記憶の資源を増やすことが、流暢性獲得のカギとなるのだ。記憶の転換を促進する潜在的学習(implicit leaning)として、門田氏は「シャドーイング・音読」の反復練習の重要性を強調する。L2によるインプット言語をアウトプットするには、L1習得過程と同様、頭の中で意味処理を行い、リハーサル(プラクティス)をする必要がある。リハーサルとしての「シャドーイングと音読」はインプットとアウトプットを繋ぐ架け橋であり、リハーサル速度を上げることで学習者は徐々に流暢性に向かっていく。
シャドーイングや音読の効果については今後の研究に期待するところであるが、有効な学習法であることは直観的に理解できる。現場教師はこれらを指導計画に組み入れ、どのように効果を引き出すことができるか。発想の豊かさと実践方法の工夫が求められる。


第13回 出張!英語教育何でも読書会
日時:2014年11月2日(日)10:30〜12:30
場所:アットビジネスセンター渋谷東口駅前301号室
課題図書:投野由紀夫(編)(2013) 『CAN‐DOリスト 作成・活用 英語到達度指標CEFR‐Jガイドブック』(大修館書店)
コーディネーター:伊藤泰子(神田外語大学)・後上雅士(早稲田中学・高等学校)

今回の読書会では,今年の6月に行われた座談会に引き続いて,Can-doリストに関するテーマ(CEFR-J)を取り上げた。当日は様々な校種・所属の参加者が集い,総勢10名という小規模の会ではあったものの,活発な議論が交わされ,2時間があっという間に過ぎてしまった。
読書会冒頭にコーディネーターから課題図書の大まかな内容について説明があり,それに続いて,実際の授業や指導においてCEFR-Jをどのように活用できるかについて議論を進めた。
まず,CEFR-JのCan-doリストの内容について,「英語を使えること(fluency)に力点が置かれていて,正確さ(accuracy)の観点が組み込まれていないように受け止められる」という意見があがった。多少の間違いがあっても英語を話したり書いたりできる力をまずは培うべきだという点について異論はないが,中高での英語指導の先には大学入試が控えており,それを突破するためには正確さも無視するわけにはいかないのが現状である。さらに話題は評価へと広がり,accuracyについては「正しいか間違っているか」を判断することで評価できるが,fluencyの場合は評価の観点や基準が教員間でぶれてしまうので,授業に取り入れにくいという声があがった。これについては参加者の中から,例えばライティングの評価をする際に,各基準の典型となる生徒の作文例をいくつか示し,教員間で共通認識を持つことで,信頼性の高い評価が可能になるというアイディアが紹介された。
次に,「技能別の目標設定」が話題になった。4技能をバランス良く身につけることは大切だが,実際には読んで理解できる英語のレベルと,話したり書いたりできる英語のレベルには差があったりする。これはいけないことではなく,むしろ当たり前のことで,そのような現状を考慮した授業設計をこそしていくべきである。CEFR-Jが,生徒が目指すべき英語力の全体像を俯瞰しているのだとしたら,教える側の人間は,生徒がその全体像の中でどこに位置しているかをまずは見極め,それぞれの技能を伸ばすために適切な指導を考えていく必要がある。
最後に,Can-doリストを使った評価について議論した。実際に授業で行う評価は「できる」「できない」のみで割り切れるものではなく,そこに至るまでの学習の取り組みの度合いや,発達段階も無視できない。Can-doリストはそこに書かれている内容のみでなく,そこに掲げられた目標を達成するための手順や評価方法が付随してこそ,教育現場にとって意味のあるものになるのではないだろうか。


第14回 英語教育「なんでだろう?」座談会
日時:2014年6月22日(日)
場所:昭和女子大学3号館3階3S02教室
お題:CAN-DOリストのなんでだろう?
講師:本多敏幸先生(千代田区立九段中等教育学校)

時々小雨の降る梅雨空の下、昭和女子大学にて第14回座談会が行われた。テーマは、現場指導の新たな試みとして多くの注目を集める「CAN-DOリスト」。大学、中高の教員、教育関連企業の社員など15名が参加した。本多俊幸先生の発表は、九段中等教育学校(以下、「九段」)でCAN-DOリストが作成されたきっかけと、これまでのリストの改善の経緯について。この分野における実践の最先端を行く本多先生のお話には、「CAN-DOリストの必要性を感じているが、作り方がわからない」といった、英語教師が抱える共通の悩みを解決するヒントが散りばめられていた。
九段は今年で開校8年目。開校準備のスタッフ会議で、知識よりも技能の習得を重視しようという指導方針が打ち出され、CAN-DOリスト作成の必要性が明確になった。手始めに(2009〜2010版)、中高6年間の目標を技能別にまとめるため、スタッフ全員で案を出し合った。試案を見て愕然とした。内容が多岐にわたり過ぎる、系統性が見られない、など次々に問題が生じ、作成計画が頓挫の危機に瀕したこともあった。
福岡県立香住丘高校との情報交換会で解決への糸口が見つかった。九段に先駆けてCAN-DOを導入した同校のリストは、計画が詳細かつ入念で、目標が技能別に整理されていた。さらに、東京外国語大学の根岸雅史先生の助言により、CAN-DOリストの前提となる学校独自の英語指導目標を設定した。2010〜2011版では4技能それぞれについて、各学年に5つの目標項目を設定した。この中の一つには、九段の英語教育の特色を成す行事や活動に関連したものが織り込まれている。例えば、始業前学習時間に全校で取り組んでいる副読本の読書については、中2では「簡単な副読本を楽しみながら読むことができる」、高1では「副読本を読んで、概略を把握したり、分からないところを自分で調べたりすることができる」という言葉で、リーディングのディスクリプターとして具体的に記述されている。このような独自の取り組みはKUDAN METHODと呼ばれ、他に、留学生による始業前20分間の英語授業(ENGLISH SHOWER)などがある。また、この年にはCAN-DOリストの各目標項目をどの程度達成しているかを測定するため、達成度調査を開始した。これはリストに示されている20項目(各学年4技能×5項目)について、どれくらいできる自信があるかを生徒が5段階で自己評価するというもの。この中には、実際に試してみてから評価を行う実行調査の形態をとるものが5項目含まれている。例えば、「英文を聞いて概略を理解できる」という評価項目については、放送される英文をその場で聴き、理解度を確認してから評価を行う。調査結果は、ディスクリプターの文言の調整(評価平均が2.80未満の低評価項目が対象)にも利用された。
2011〜2012版、2012〜2013版では、項目数の絞り込みや(5つから4つに変更)、外部試験における目標とCAN-DOによる到達目標の切り離しを行った。この頃、到達度調査のデータは数年分蓄積していたため、数値が安定している項目のディスクリプターについては文言の固定化が可能になった。
最新版の2014〜2015では、それまでのG1(中1)〜G6(高3)の6グレードに、G6プラスという最高グレードを新たに加えた。項目は、従来の4項目から3項目(「実生活に関わること」「行事やKudan Methodに関すること」「授業に関すること」)に絞られ、speakingの項目には新たに会話(spoken interaction)を加えた。
「CAN-DOリストは作っただけでは意味がない。英語科の全教員が指導や評価方法を共有する体制が必要だ。」と本多先生は言う。実際、九段では月に一度研修を行い、教員間の意思疎通を徹底している。「訳読は行わない」、「授業は英語で行う」などの指導方針から、teacher talkを含めた指導案、テストや授業用資料に至るまで全てが共有されている。
九段の試みは従来の体制を抜け出せない日本の英語教育に一石を投じるものである。近年の学習指導要領改訂によりカリキュラムは技能重視型へ大きく転換し、学校にはそれぞれの生徒の実情に合った、特色のある指導が求められている。CAN-DOリストはそのような独自性の表現の一形態であり、KUDAN CAN-DOリストは今後の時代の流れの中で有意義なモデルとなるに違いない。


第13回 英語教育「なんでだろう?」座談会
日時:2013年12月15日(日) 午前10時〜午後12時30分
場所:東京学芸大学S棟S201教室
お題:「教科書を1年間に5回繰り返す−スパイラル型シラバスのすすめ−」
講師:西村秀之先生(横浜市立南高等学校附属中学校)

暖かい陽射しがふりそそぐ中、東京学芸大学にて第14回英語教育「なんでだろう?」座談会が開催された。講師の西村秀之先生が御自身の授業で実践していらっしゃる、1冊の教科書を1年間に5回繰り返して使うという画期的な授業方法がテーマであった。例えば、Unit 1から11で構成される1冊の教科書の場合、4月にUnit 1から始めて3月まで教科書を1度通して使うことが通常の授業展開であるが、西村先生は、Unit 1から11までを1年間に5回繰り返して使われる。その5回をRound 1からRound 5と名付けて、それぞれのRoundでどのようなことにフォーカスをおいて授業をされているのかを、実際の授業風景の映像も交えながらこの座談会で実践して下さった。当日は、15名の大学生、大学院生、教員が参加された。参加者は中学1年生という設定での授業に積極的に参加しながら、活発な議論も行われる座談会となった。
まずRound 1では教科書のUnitに出てくる写真を使ってトピックの導入を行い、次に登場人物の会話音声を聞いて絵の並べ替えなどの問題を解かせ、最後に登場人物の1人になりきって「なりきりリスニング」を行わせる。このRound 1では、聞かせる、つまりインプットを入れることを目的としており、教員の発話は基本的にはすべて英語で行われる。
Round 2で初めて文字を見せて、音と文字を一致させる。Round 2の目的は内容理解の促進と音と文字を関連づけさせることである。
Round 3でようやく音読となるが、音読を始めるまでに、Round 1と2と自宅学習ですでに30〜40回音声を聞いたことになり、かなりの回数のインプットを受けたことになる。Overlapping(音声と同時に音読)やoverlap max(音声と同時に音読した直後、同じ文をリピート)などの活動を取り入れて音読指導をする。また、Round 3では転写というかたちでライティングも導入する。
Round 4からスピーキング活動を取り入れるが、Round 4ではペアになって教科書の会話文の穴埋めや単語の並べ替えをする。もし正確にできない場合はまた音読に戻らせるが、これまでの音読とは違った視点に立ちながら音読をするようになる、と西村先生はおっしゃる。
そして最後のRound 5ではここまで学習してきた会話文の内容を、ピクチャーカードを使ってretellingさせる。生徒たちは、初めはペアで、次にグループで、そして最後にクラス全体の前でretellingを行う。西村先生がここで気を付けているのは、単なるセリフの繰り返しではなく、状況を自らの言葉で描写させるようにすることとのことであった。
以上がRound 1〜5の概要であるが、文法項目の扱い方や宿題、定期試験はどのように行うのかといった点が気になるところである。文法については、文法項目によってどのRoundで説明を行うかを変えるとのことであった。例えば、文字媒体があったほうがわかりやすい三単現の-sなどはRound 4で扱う、などである。宿題については、復習をさせることを目的としていて、例えば教科書のCDを使って「なりきりリスニング・スピーキング」を行わせたりするそうだ。また定期試験は、授業でやったことがきちんとできているかどうかを測ることを目的としているので、初めの2回のテストでは、文字や単語を書かせることはあっても、基本的にはリスニングが主な問題形式となるとのことであった。参加者からは様々な質問が出た。例えば、日本語訳はまったく与えないのかという質問に対し、基本的にはまったく与えず、生徒も日本語訳を要求することはない、という御回答であった。さらに評価はどのように行うのかという質問に対しては、定期試験とRound 1から5のパフォーマンスに基づいて行う、ということであった。
以上のように、従来の授業方法とは異なり、大変画期的な授業の進め方である。西村先生によると、生徒は英語の量に慣れた、日本語訳にこだわらなくなった、初見のものでも漠然と意味をとらえるようになった、ということであった。インプットを多く受けられる点も含めて様々な利点が挙げられるが、どこまで生徒の英語力の定着につながっているのかについては、現在それの検証が行われているということである。現場の教員としてはその結果も気になるところである。(文責:伊藤泰子(神田外語大学))


第12回 出張!英語教育何でも読書会
日時:2013年6月30日(日)12:00〜14:00
場所:東京学芸大学
課題図書:『高校英語教科書を2度使う! 山形スピークアウト方式』金谷憲(編著)(アルク)
コーディネーター:臼倉美里(昭和女子大学)
記録者:深澤真

今回の読書会は、著者である金谷憲先生、鈴木加奈子先生、山科保子先生をお招きして行われ高校、大学の教員、大学院生、出版社の方などが参加した。まず、コーディネーターである臼倉先生より「Speak Out方式」についての概要説明があった後、すぐにディスカッションに入った。
まず、学校設定科目である「Speak Out I, II」以外の英語の授業の様子についての質問があった。英語I(当時)では、Speak Outの授業に向けて内容理解や語彙に重点を置き、オーラルコミュニケーションでは、英語に慣れさせ たり、エッセイを書かせたりして、2年次のSpeak Out Iの授業に繋げるようにしているとのことであった。また、英語で授業を進めるにあたり、内容の難しくなる英語IIなどでは質問の仕方を変えるなど、生徒の理解度をより深める工夫があった。次に、教職員の協力体制についての質問もあった。はじめから勤務校の教員全員が必ずしも同意見であったわけではないが、生き生きとした様子が見られない生徒の様子から、英語を楽しめる環境を作ろうと会議を繰り返し、Speak Outの授業を通して先生方自身が生徒の成長を実感することによって、理解者が増えていったという体験談には説得力があった。著者の先生方もSpeak Outのクラスでの生徒の理解度のばらつき など現在の課題も感じているようであるが、「教科書を2度使うことの効果が出ていればあまり心配することはない」との金谷先生からのより長期的な視野に立った助言も大変参考になった。
次に、実際のSpeak Outの授業で行われたディベートのDVDを見た。ディベートを実践するだけ でなく、結果に納得のいかない生徒が英語で再審議を申し入れる様子など、英語でのコミュニケーションを楽しみながら行っている様子が伝わり、普段の授業での指導が垣間見える映像でもあった。その後も、Speak Outで行われるlessonの順番や、実施時期(どの時期にどのLessonを扱うか)、通常のコミュニケーション英語や英語表現などの通常科目でSpeak Out方式の実施の可能性などについて、活発なディスカッションが引き続き行われた。著者の先生方にご参加をいただいたことにより、とても活発で内容のある読書会となった。


第12回 英語教育「なんでだろう?」座談会
日時:2013年2月17日(日) 午前10時〜午後12時
場所:昭和女子大学1号館2階2S33教室
お題:ワークショップ形式座談会「ディクトグロスを用いたフォーカス・オン・フォームの指導」
講師:山本成代先生(創価大学)

冷たい風が強く吹く中、実践・研究両側面からディクトグロスに興味を持つ学生や教員など12名が参加した。昨年秋開催の読書会ではフォーカス・オン・フォームに関する図書を読み、今回の座談会はそのテーマと関連した内容であったため、読書会・座談会の両方に参加して下さった方も何人かいらした。講師の山本先生は英会話学校で教えられた経験があり、「ここに来た学習者が何を必要としているのか、自分は何が与えられるのか」という視点から英語教育に対する探求が始まったそうだ。「学生の目線に立って」がスタート地点であるため、授業の中で学生をうまく巻き込み、学生に達成感を与えてあげられる指導を行うことを目指し、そのためにディクトグロスを活用されている、という御自身の経験談から座談会は始まった。
ディクトグロスとは、短くて内容の濃いテキストを、教師が普通のスピードで読み上げ、学習者はメモを取りながら聞き、さらにそのメモを基にペアまたはグループで協力してテキストを復元していく活動のことである。英語を使って実際にコミュニケーションしながら学生の関心を文法に向ける(フォーカス・オン・フォーム)ツールであり、Input phase、Output phase、Confirmation phaseの3段階から成り立っている。学習者に英語の基礎力がない場合は使いづらいと言われるが、山本先生によると活動内容を調整すれば様々なレベルの学習者に応用できるということである。例えば、初級者を対象とする場合はInput phaseをしっかりさせる必要があり、上級者の場合にはOutput phaseに集中させるとよいということである。
座談会では参加者も学習者になったつもりでディクトグロスを体験した。まずテキストを見ながらCDを聞き、シンクロリーディングやシャドーイングを行った。次にディクトグロスのワークシートが配布され、CDを聞きながらそのワークシートにメモを取った。メモは単語・フレーズ・記号(英語でも日本語でも)、何でもよいということであったので、テキスト内のabove and undergroundというフレーズは矢印を使って「↑↓」と表現している参加者もいた。そしてグループで話し合いながら文章復元を行い、終わってから元のテキストと見比べて間違った部分などを赤で修正した。教室内では、最後にこの活動を通して何に気付いたかを書かせることになるが、その際学生たちが文法形式に意識を向け、気づきが起こっていることを確認することができる。つまり、文法のaccuracyを高める活動として活用できる。
教える側に立ってみると、教材のレベルや内容、活動内容、また復元段階で教師はどのような声がけをするべきか、など考慮すべき点が多々ある。座談会でも、「活動の最後に教師からの明示的な文法説明はあったほうがいいのか?」「ターゲットとなる文法項目を多く含む、濃度の高いテキストを作るにはどのようにすればよいか?」「グループ替えはどの程度の頻度で行うか?」など、教室内でディクトグロスを活用するための具体的な方法に関して参加者から様々な質問が出た。文法事項に気づきをもたらすことが大切なので、初見のものではなく意味がわかっているものを使い、復習活動としてディクトグロスを使用するということを山本先生は強調されていた。また学習者のレベルに応じて、自分の意見も述べるようなディスカッションも取り入れるといいという意見もあった。One-wayではなく学生を巻き込みながら、学生が退屈しないような文法指導ができる、そのヒントをディクトグロスは与えてくれている。 (文責:伊藤泰子)


第11回 出張!英語教育何でも読書会
日時:2012年11月18日(日)10:00〜 12:00
場所:昭和女子大学学園本部館1階 第一会議室
課題図書:英文法導入のための「フォーカス・オン・フォーム」アプローチ 高島英幸(著)大修館書店
コーディネーター:伊藤泰子(神田外語大学)、深澤真(茨城大学)
報告者:臼倉美里(昭和女子大学)

今回の読書会のテーマは「フォーカス・オン・フォーム」で,高嶋英幸先生(編著)の『英文法導入のための「フォーカス・オン・フォーム」アプローチ』を課題図書に選んだ。読書会当日は7名の参加者で輪になって座り,終始アットホームな雰囲気の中で議論が進み,あっという間の2時間であった。参加者の中には,課題図書の共同執筆者の先生や,大学院生でまさにフォーカス・オン・フォームをテーマに修論執筆を行っている学生さんもいらっしゃって,具体的に,より深い議論をすることができた。
研究推進委員会が準備したレジュメに沿って議論が進められ,最初の話題は「フォーカス・オン・フォームは中学校でも導入可能か」ということであった。ある程度英語力がなければフォーカス・オン・フォームのタスクには取り組めないのではないかという声があがり,これに対して前述した共同執筆者の先生からは「中学校ではいくつかの単元が終わったところで,まとめの統合的言語活動のような位置づけでフォーカス・オン・フォームを導入することができる。しかし,ターゲットとなる文法項目を生徒がタスクの中で使うように教師がある程度誘導することを考えると,専門書に書かれているような定義とは少し異なる,いわゆる「弱いバージョンのフォーカス・オン・フォーム」になってしまうのはやむを得ないだろう。この本のタイトルに「アプローチ」とう言葉が入っているのも,このような点を考慮してのことなんです。」というお話があった。この「フォーカス・オン・フォーム」アプローチを導入することで,生徒たちが「何のために文法が必要なのか」ということに気づくきっかけを与えられれば,英語学習の促進につながるだろう。 
続いての話題は「フォーカス・オン・フォームの効果検証」であった。これについては,フォーカス・オン・フォームの学習効果を浮き彫りにすることの難しさについて参加者の間で意見が一致した。ターゲットにした文法項目が定着しているかを測るには複数の形式のテストを用いるのが良い,タスクを行った直後にのみ測定するのではなく,期間を空けた遅延テストを実施することで,よりフォーカス・オン・フォームの強みが出てくるのではないか,などの意見が交わされた。フォーカス・オン・フォームのタスクを通して,学習者がどのように力をつけていくのかという「プロセス」に注目した実証研究が必要とされているのではないだろうか。 
最後に,新しい高等学校学習指導要領の施行を控え,「文法説明も英語で行わなければならない」と思い,不安を抱えている現場の先生方も少なくないが,「フォーカス・オン・フォーム」アプローチはそのような先生方の助けになるだろうかという話題が出た。これについては,「フォーカス・オン・フォーム」アプローチの最大の特徴は,「言語使用の場面を増やす」ということで,これは学習指導要領で言われている「4技能統合」や「生徒主体」の授業展開に直結するものである,といった意見が出た。
読書会終了間際に参加者全員で確認したのは,「まずはフォーカス・オン・フォームのタスクをやってみよう!」ということであった。やってみて,失敗して,改善して,またやってみる。この手順を繰り返すことで,私たちのフォーカス・オン・フォームへの理解も深まるのではないだろうか。


第10回 出張!英語教育何でも読書会 〜『「意味順」英語学習法』〜
日時:2012年2月25日(日)10:00〜12:00
場所:昭和女子大学 学園本部館1階第1会議室
指定図書:『「意味順」英語学習法』 田地野彰 (ディスカヴァー トゥエンンティワン)
コーディネーター:臼倉美里
記録者:深澤真
参加者:9名

《ウォームアップ》
今回の読書会は、高校、大学の教員および大学院生などが参加し行われた。まず、テーマである「意味順とは?」についてコーディネーターである臼倉先生より簡単な説明の後、ウォームアップもかねて、意味順学習法についての意見交換を行った。そこでは、意味順で学習したり表現したりするのはおもしろい発想なのではないかとか、小学校の英語指導では意味順を使って上手くいっているといった報告、さらに英語が書けない子やわからなくなっている生徒には良いのではないかといった意見があった。一方で、意味順を活用してどこまで学習させることが出来るかや、英文を構成する「意味順ファイル」(誰が、〜する、だれ・なに等)に分けるのが難しいのではないかとの意見、さらに日本語のもとの表現から英語の表現に当てはまるような意味に変換すること(例:猫の手も借りたい→とても忙しい)が難しいのではないかなど様々な疑問点もあげられた。
そこで次に意味順に分けてみるシミュレーションを行った。方法は、高校で使われている教科書の一段落を使って「意味順フォルダ」にそれぞれの文章を分けてみるというものであった。その後、3つのグループに分かれ、シミュレーションを行ってみてのディスカッションを行った。それぞれのグループからの報告をまとめると、実際の英文を使ってフォルダに分けていくのは難しいという意見が多かった。一方で、高校生などには中学校の文章を使って練習させると良いのではないかといった意見や、意味順を使った学習の目標が「8割主義」(わからない生徒でも8割程度出来ればいい)であること、さらにリーディングより意味順を主体的に活用することの出来る作文やスピーキングの方がより効果が高いのではないかといった意見も多く聞かれた。さらに全体でのディスカッションでも、意味順を使って、読解→要約(作文)→スピーチのようにすると意味順の学習法が生きるのではないかといったアイディアや、語順ではなく意味順であることが大切であり、英語を得意としない生徒を指導する上で学習を援助する1つの方策になるのではないかとの指摘もあった。実際のシミュレーションや活発な意見交換を行いながら、意味順学習法の理解を深めることの出来た読書会となった。


第11回 なんでだろう座談会 〜「音読指導」のなんでだろう?〜
日時:2011年6月19日(日)10:00〜12:00
場所:日本大学経済学部7号館6階7061教室
参加者:14名
内容:
1.研究推進委員会(井戸,臼倉,加藤)のプレゼンテーション
(1)リサーチ・トピック
◆日本人英語学習者が英文を音読しているとき,空読みすることはあるのか。
◆空読みをする・しないは,?学習者の英語力,?音読の上手さ,と関係するのか。
(2)リサーチ・デザイン
◆協力者: 大学生22名
◆実験手順:内容理解をした後,1回目の音読をし,その後最後の文だけが違う英文をもう一度音読させ,意味の違いに気づいたかについて質問する。
(3)結果&考察
違いに気づいた生徒と気づかない生徒に大きく分かれ,空読み率は46%であった。意味の違いに気づいたグループは,気づかないグループに比べ英語力が高かった。また,音読の上手さには差はあまり見られなかった。
2.グループ・ディスカッション
(ディスカッションの様子)
学生と現職教員の混じった3つのグループに分かれ,実験方法や結果,考察などについて議論した。話し合いでは,音読の後にタスクを設定するなど指示を変えてみると,生徒の音読に対する意識が内容重視になったり,発音重視になったりするのではないかという意見や,最後の文の違いに気づかなかったのは空読みのためではなく,音読をしている生徒が意味の違いがあること自体を予期していなかったために気づかなかったのではないかなどの意見交換が活発に行われた。
3.フリー・ディスカッション
グループ・ディスカッションの報告の後,話し合われた内容を基にさらに全体で意見の交換を行った。そこでは,音読の仕方と意味を考えているかを比べてみてはどうかや,ネイティブ・スピーカーに自然さなどの観点空音読を評価してもらうのはどうか,さらに,音読への題材の影響を指摘する声や,テキストレベルを分けて実験を行って見てはどうかなどの提案もあった。
【グループ・ディスカッションでのその他の意見】
・音読をするのであれば,モデルを与える必要があるのではないか。
・授業の設定で,音読を理解の定着として実験しているのが現実にあっていていいのでは。タスクによって,音読の目的が変わるのではないか。
・教員の指示によって,空読みの結果に変化があるかどうか見てみるのもおもしろい。

【フリーディスカッションでのその他の意見】
・音読をしている学生は,元々勉強量が違うのではないか。
・空読みしていたのではなく,意味の違いに気づかなかっただけでは?
・題材も影響を及ぼすのではないか。
・始めに黙読の必要はあるか。また,黙読で理解しているのでは?
・テキストレベルを分けて実験してみてはどうか。
・教員の指示によって,空読みの結果に変化があるかどうか見てみるのもおもしろいのではないか


2011年度は群馬研究大会での委員会企画での発表(音読プチリサーチ)があったので,読書会は行わなかった。


第10回 英語教育なんでだろう座談会
日時:2011年2月20日(日) 午前10時00分〜午後12時30分 
場所:日本大学経済学部 7号館7061教室
コーディネーター:井戸聖宏, 臼倉美里

今回の座談会は「音読指導」をテーマに,(1) 中学校と高校での音読指導の実践例の紹介,(2) 音読の効果についての理論的背景の紹介,(3) ディスカッション,という3部構成で行なわれた。参加者は16名で,その中には中学校,高校,大学の先生方に加えて教員志望の大学生の姿も見られた。様々な立場の参加者が入り混じり,終始白熱した議論が交わされ,気づけば終了時間を大幅に過ぎて30分超過しての閉会となった。
第1部ではまず,中学校の教科書の本文を頭に入れることを目標とした音読指導の一例が紹介された。黒板に各文の頭にくる単語をヒントとして書き出し,生徒はそれを見ながら何回も音読練習を行なう。途中で適宜生徒を指名して個別に音読させることで緊張感を維持しながら練習を続け,最後には覚えた本文をノート等に書き出すことでまとめとする。テンポよく一連の活動をこなしていくうちに,生徒はいつの間にか教科書本文をすべて覚えてしまうという仕組みになっている。このような指導例は高校の授業にも取り入れることができる。 
高校での音読指導の一例としては,穴あきシートを使った音読や,ペアになって日本語と英語を交互に読む対訳音読,Read, Look up, & SayやRead, Look up, Say, & Writeなどの音読活動が紹介された。参加者からは,高校の授業では内容理解に時間がかかってしまい音読指導に十分な時間を取ることができないという声があがり,音読指導のための時間を生み出す工夫についても議論した。
第2部では,音読は外国語習得にどのように役立つかについて,背景となる第二言語習得理論が紹介された。音読を繰り返すことで単語認知の自動化が進み,結果としてリーディングスキルが向上すると言われているが,効果的な音読指導の全貌は依然として明らかになっておらず,指導の具体的な手順や,正確さと流暢さのバランスをどのように保つのかについても情報が欲しいという意見があがった。 
第3部のディスカッションでは,「何のために音読をしているか」「音読指導で重点を置くべきことは何か」「空読みは防げるのか」「音読がアウトプットにどのようにつながっていくのか」「フォニックスの効用」「発音記号の効用」「音声指導の重要性」など様々なトピックで議論が交わされた。 
研究推進委員会では音読指導に関する現場型リサーチをやってみようと計画しているが,今回の座談会を通して音読指導にまつわる疑問が数多くあることをあらためて実感した。これらの疑問を解消するためにどのようなリサーチをすれば良いのか,引き続きみなさんと一緒に考えていきたい。 (報告者 臼倉美里 )


第9回 出張!英語教育なんでも読書会
日時:2010年11月28日(日)午前10時より
場所:昭和女子大学 学園本部館第1会議室 
課題図書:『英語多読法』古川昭夫 著 小学館101新書

今回の読書会には、中学、高校、高専、大学の教員の他、今まで読書会にはあまり参加されることのなかった、社会人に英語を教える立場の方、小学生に英語を教えている方など、幅広い層から合計14名が参加された。加えて、もうひとつ今までの読書会と大きく違っていたのは、著者の古川氏が参加されたことである。当然のことながら、議論は活発に行われた。
今回は著者が参加したこともあり、読書会と言うより座談会の色が濃かった。まずは、それぞれの立場で取り組んでいる多読や多読授業の様子が紹介された。それに関連して、多読の魅力や長所などが話された。また、実際の授業についての具体的な話しも興味深いものだった。例えば、多読がきっかけとなって英語力がぐんぐん伸びた生徒の例が示された。それに付随して、文法力がある生徒の方が、英語力の伸びが速いとの感想が述べられた。また、英語が苦手な大学生を対象に多読指導を行うことで、英語を読むことが苦でなくなり、自ら読みたい本を選ぶようになった例も示された。多読を行うことで、英語力はもちろん、学習に対する姿勢の面での効果も期待できる、という意見があった。一方、多読プログラムの授業ではドロップアウトする子が2〜3割はいる、どういう子がドロップアウトするか、多読授業を受けている子の3分の2は授業以外では英語の本は読まない、などの具体例も紹介され、多読授業の際に注意すべき点が確認された。
多読によって英語ができるようになったことを知る目安としては、一冊で一万語を越す本が読めるようになること、Oxfordの Bookwormのレベル1が30分くらいで読めること、が示された。また、多読を始めるときには、絵の補助のあるやさしいレベルから始めることが大切であり、その後、絵の補助がなくなったレベルを乗り越える段階も非常に重要で、この段階には指導者が必要になるとのコメントもあった。その他、多読はアウトプットにつながるか? 理想的な大学入試とは? 文法指導に関する議論などもあり、本当にあっという間の2時間であった。 (報告者 井戸聖宏)


第9回 英語教育「なんでだろう?」座談会
日時:2010年2月21日(日) 午前10時〜午後12時
場所:昭和女子大学付属中高部会議室
テーマ:「定期テストの変化から見る授業改善(SELHiの実践例に学ぶ)」
提案者:河端奈々先生,杉山信行先生,?下亜紀子先生(昭和女子大学附属中高部)
コーディネーター:臼倉美里(昭和女子大学)

昨年夏の関東甲信越英語教育学会埼玉大会では、研究推進委員会企画としてSELHi指定を受けた2校の先生方に取り組みについて御報告を頂いた。今回の座談会では、そのうちの1校である昭和女子大学附属昭和高等学校の先生方に、定期テストという視点から授業がどのように改善されたかを御報告頂き、参加者からの質問も交えて意見交換がなされた。提案者も含め9名でこじんまりとした会となったが、その分ざっくばらんに議論をすることができたのではないかと思う。
基礎英語力を定着させ英語コミュニケーション能力を向上させることを目的として掲げて、平成17年に昭和女子でSELHiの取り組みが始まった。それまでは完全に訳読式だった授業を大幅に改善し、英語を「使う」授業を目指した。具体的には、和訳プリントを使用したり、各レッスンをInput、Intake、Outputの時間に区切って様々な活動を行なったりした。語彙についても、SELHi指定以前は生徒が新出単語をすべて記憶することを求めていたが、新しい授業形態では、意味がわかればよい語彙、絶対に使えるようになってもらいたい語彙など、語彙の重要度を提示した。そうすることで、きちんと学習してもらいたい箇所が明確になった。
これらのような授業改善をすれば、結果的にテストも変わらざるを得ない。昭和女子では現在、(1)定期考査、(2)授業内容を確認するために行なわれる小テスト、(3)単語・構文のテスト、(4)TOEIC Bridge、(5)インタビューテストを実施しており、最初の3つが到達度を測るためのもの、最後の2つが習熟度を測るためのテストとなっている。SELHi指定以前の定期考査と比較すると、その内容に大きな変化が見られた。まず訳読式に頼っていた頃の定期考査では全体のおよそ50%が穴埋め形式などの文法問題で、英文和訳も10%を占めていた。これに対して、SELHi指定以降は文法問題が40%に減り、問題形式も「使えるかどうか」を問うものが多くなった。また、英文和訳も4%に減少した。小テストも5分という短いものにした上、タイマーで時間を計りながらやるため生徒も一生懸命に取り組むようになった。テストが短いことは採点が楽になるというメリットもある。インタビューテストは採点に苦労するという意見も学内ではあったらしいが、大変だからやらないのではなく、採点方法を簡潔にして取り入れてみるという姿勢で臨んだとのことであった。
これらの取り組みの結果、上級レベルの生徒の英語力は伸び、全体的に見ても生徒の英語コミュニケーションに対する姿勢が積極的になって、自分が持っている英語がたとえ基礎的なものであっても何かを言おうとするようになったとの報告があった。
提案者からの報告の後は参加者との質疑応答の時間となった。作文の採点基準はどのようなものか、英語の使用を強化しながらも理解の部分はどのように扱ったか、宿題はどのようなものか、一番効果的だと思った活動は何か、授業で学んだことを確認するだけではなく応用力も測るテスト問題を入れるのはどうか、など様々な質問が出た。
これまでの授業形態を見直して新しい指導法を取り入れることは現場ではなかなか難しいが、このような実践報告を踏まえながらよりよい英語教育を目指していきたいという参加者間の共通の意識を確認して、閉会となった。 (文責:伊藤泰子)


※2009年度は夏の埼玉研究大会で,委員会企画として「SELHi企画」を行ったので,読書会は行わなかった。


第8回 英語教育「なんでだろう?」座談会
日時:2009年2月15日(日) 午後3時〜5時
場所:早稲田大学26号館 302会議室
テーマ:リスニング指導の「なんでだろう?」
講師:玉井 健先生(神戸市外国語大学)
コーディネーター:田辺博史(青山学院高等部)・星野由子(筑波大学大学院)

寒さが一時的に和らいだこの日、玉井健先生(神戸市外国語大学)を講師としてお招きして、リスニング指導の「なんでだろう?」座談会を開催した。玉井先生はシャドーイングを専門としていらっしゃることもあり、シャドーイングに興味のある参加者を含めて15名が参加し、活発な意見交換が行われた。先生御自身の英語学習に通訳訓練法のシャドーイングを取り入れたことでTOEFLの点数が急激に伸びたことから、シャドーイングの効果に興味を持ったというエピソードを初めに披露して下さり、シャドーイングを入り口としてこの日のテーマである「リスニング」についてレクチャーをして下さった。教師にとって、リスニングが最も苦手意識の高いスキルであることがわかり、そのことも影響してか、リスニング指導にも消極的な姿勢が見られるようだ。様々なモデルを紹介しながらリスニングとは何かを御説明頂いた後で、リスニングとシャドーイングの関係に話が進んだ。リスニング指導におけるシャドーイングの意義とは何かを考えたとき、自分の母語とは違うリズムのテンプレートを身に付けさせるのに効果的な方法の一つと言えるのではないか、というお話があった。シャドーイングでは音声を繰り返しており、内容を理解しているかどうかはわからない。音韻分析のレベルのアウトプットであるので、意味理解のレベルのリスニングとは違うということである。
玉井先生のレクチャーに引き続き、参加者を交えての質問・ディスカッションとなった。シャドーイングの効果的な利用法、評価法、他の活動(シンクロリーディングやレペティションなど)とシャドーイングの効果の比較、既習教材と未習教材によるシャドーイング効果の違いなど、質問が絶えることがなかった。先生御自身が教材を選ぶ際には、音読がきちんとできるもの、スピードがついていけるもの、内容が面白いものなど様々な点を考慮して教材のバリエーションを増やすように心がけていらっしゃるそうだ。参加者から出た質問をもとに今後の研究課題の案を提示して下さったり、具体的な教室内活動を御提案頂いたりと、教育・研究両面において大変有意義な時間を過ごすことができ、2時間の座談会が少々延長してからの閉会となった。


第8回 出張!英語教育なんでも読書会
日時:2008年11月16日(日)15:30−17:30
場所:早稲田大学26号館302会議室
指定図書:『英語教育はなぜ間違うのか』 山田雄一郎(ちくま新書)
コーディネーター:臼倉美里(昭和女子大学附属中高部)、伊藤泰子(神田外語大学)

今回の読書会は、高校、大学の教員および英語教育専攻の大学院生など(6名)が参加し、行われた。まず始めに,第1章の国際化=英語化?について論じられた。英語のinternationalは無機質な意味しか持たないと述べられているが,国により持つ意味や,外国語のイメージも違うのではないかなどについて話し合いが行われた。次に,小学校での英語教育の導入について話が展開した。ここでは,小学校での英語教育の是非やその効果,小学校英語教育の目標,さらに中学英語教育とのつながりや学ぶ内容の前倒しについても活発な議論を行った。続いて,第5章に関連して,英語教育におけるネイティブ・スピーカー信仰があるかについて話し合った。加えて,日本人英語学習者は正確さを追求する傾向が強いのではないかということや,その背景となる環境,さらに多少正しくなくてもコミュニケーションを成立させることを優先する「誤りへの許容性」と学習者の英語力との相関などにも話が及んだ。最後に,英語は教えられるのかという大きなテーマについて意見を交換し,言語を学ぶ機会を与え自立した学習に導くことが大切であるという点を確認した。なごやかかつ内容のある読書会となった。


第7回 英語教育の「なんでだろう?」座談会
日時:2008年7月13日(土) 15時30分〜17時30分
場所:青山学院高等部 第3会議室
お題:ライティングのなんでだろう?
コメンテータ:大井恭子先生(千葉大学)
コーディネーター:臼倉美里(昭和女子大学附属中高部)、伊藤泰子(神田外語大学)

今回の座談会には中学校・高校・大学の先生方や大学院生など17名が参加し,コメンテーターの大井恭子先生(千葉大学)を囲んで様々な意見交換が行なわれた。コメンテーターの大井先生の気さくなお人柄のためか,終始和やかな雰囲気で活発な意見交換がなされ,あっと言う間に2時間が過ぎ,時間を超過しての散会となった。
大井先生からのご提案は大きく分けて2つあり,まず始めに「ライティングの目的は自己表現か?」という問題提起があり,続いて「英作文が書けるようになるための指導の6ステップ」を紹介していただいた。1つ目の問題提起の際には,英語母語話者と日本語母語話者の英作文が例示された。その上で,英作文の目的は単なる自己表現にとどまるべきではなく,英語のパラグラフライティングに代表されるような,客観的でわかりやすい論理展開がなされている英作文を目指すべきではないかというご提案があった。これに対し,参加者からはライティング指導においてaccuracy(正確さ)とfluency(流暢さ)のバランスを取るのが難しいという意見があり,大井先生からは焦点に合せてタスクを変える工夫を紹介していただいた。また,学校教育におけるライティング活動の目標は,英語の文章構造が日本語の文章構造とどのように違うのかを知ってもらうことや,自分が書いた内容を他人に読んでもらうことの喜びを体感してもらうことにあるべきではないかというお話があった。
2つ目の「ライティング指導の6ステップ」の中では,英作文ができるようになるために「型(モデルとなる表現・形式)」を示すことの重要性が提案された。これに対し参加者からは「型」が習得された後,実際にそれらを学習者が自力で使えるようになるまでにはどの程度の時間がかかるのだろうという疑問が出た。この答えはこれまでの研究では明らかになっていないが,「型」を単なる「知識」の状態から「運用能力」に変化させるためには,やはり文章を書く機会を多く与える必要があるということは参加者の間でも一致した意見だった。
その他にも,フィードバックの方法や評価について,ライティング指導におけるリーディングの役割についてなど,議論は尽きなかった。今回の座談会を通して,参加者一同大いに頭を使い,授業や研究のアイディアを生み出すきっかけを得ることができた。


第7回 出張!英語教育なんでも読書会
日時:2008年6月15日(日)15:30−17:30
場所:早稲田大学26号館302会議室
指定図書:『「達人」の英語学習法』 竹内 理 著(草思社)
コーディネーター:田辺博史(青山学院高等部)

今回の読書会には、中学、高校、大学の教員および英語教育専攻の大学院生など(14名)が参加し、活発な議論が交わされた。まず始めに、達人の学習法として挙げられている「音読」の効用および教室での実践について話し合いが行なわれた。その中で、「音読」は、日本の英語教育では、最近ずいぶん見直されてきているが、北米の外国語教育ではあまり実践されていないという事実が指摘され、それがいったいなぜなのかについていろいろな意見が交わされた。また、達人たちは、初期から中期にかけて、「分析的に読む」ことを徹底して行なったということが述べられているが、果たして現在の「教室」でどれだけ「分析的な読み」が必要なのか、また「音読」や「シャドーイング」といった活動と「分析的な読み」のバランスをどのようにとっていけばよいのかについてまで話が及んだ。その後、授業だけではとても時間数が足りないため、いかに授業外で学習者に英語を勉強させるか、そのためにはどうしたらよいのか、などに議論が発展していった。その中で、学習者のメタ認知能力を高め、自ら英語学習を進めていけるように教師が「援助」していく必要がある事が確認された。このように、議論は自由な雰囲気の中で進められ、2時間という時間はあっという間に過ぎ去った。


第6回 英語教育の「なんでだろう?」座談会
日時:2008年2月23日(土) 15時30分〜18時00分
場所:早稲田大学22号館502教室
お題:スピーキングのなんでだろう?
コメンテータ:酒井英樹先生(信州大学)

当日は大変風が強く、鉄道も一時運行停止になるほどの荒れた天候であった。研究推進委員会としても、参加者の出足が気になるところではあったが、当日は大学や中高の先生方など、13名の方にご参加いただいた。ここ数回の座談会と比べると、やや少なめではあったが、座談会自体はそんな荒れた天候にも負けず劣らず、大変活発な意見交換がなされた。
今回はスピーキングをテーマに、酒井英樹先生をお招きして、お話をいただいた。しかし、会の序盤は先生のお話を聞くというよりも、参加者全員がスピーキングに関わる様々な活動を実際に行い、それに対して酒井先生からの示唆に富むフィードバックをいただきながら、和気藹々と進行して行った。そうした個々の具体的な活動を参加者自身が体験した上で、会の後半は現在主流となっているスピーキングに関する理論の話へと展開して行き、今後の研究へとつながる諸説をご紹介いただいて、酒井先生からのお話は一旦終了となった。
しかし、その後の質疑応答ならぬまさに座談会の場でも議論は白熱し、それぞれの参加者が活発に意見を出し合い、要所々々で酒井先生がまとめを下さるといった形で、大いに盛り上がった。途中休憩を挟むこともなく、気がつけば会の終了時刻を過ぎており、議論の幕引きに進行役も悩んでしまうこととなった。
座談会を終了しての印象は、まさに酒井先生の話術に引き込まれたといった感じであり、久々に「時の経つのも忘れて」という時間を過ごせた貴重な機会であった。


第6回 出張!英語教育なんでも読書会
日時:2007年11月25日(日)15:30−17:30
場所:早稲田大学 大隈タワー26号館 302会議室
指定図書:『シャドーイングと音読の科学』 門田修平著(コスモピア)

今回の読書会には、21名もの参加があり、しかも、はるばる宮崎や新潟からの参加者もあった。最近のシャドーイングや音読や課題図書への注目度の高さを反映したものと思われる。
さて、読書会の前半は課題図書のおさらいに、後半は参加者が授業の中でシャドーイングをどう使っているかについて話し合われた。
前半は課題図書の内容について章ごとに話し合われた。課題図書は絵や色文字がたくさん用いられており、一見分かりやすそうだが、実は内容はかなり難しい本なので、読んでみて分かりにくかった点に関する質疑応答が行われた。
話し合いの中では、実際に教室でシャドーイングを行っている先生から貴重な意見がいろいろと出された。その中で、ただ授業中にシャドーイングをやるだけでは生徒は発音がなかなか向上しないこと。生徒の発音向上には、練習させるだけでなく、教員が調音法を教えることが不可欠だという意見が出た。
一方、シャドーイングを通じてプロソディ面は改善されることが期待できるという意見や、母音の発音に改善がありうるのではないか、という意見もあった。
問題点として、音に完全に集中してシャドーイングをすると、モデルをまねて発音するだけになってしまい、英語力の向上に必ずしも結びつかないのではないか、という意見が出た。シャドーイングは音読などその他の活動と共に使うものという意見が一般的だった。
そのあと、シャドーイングがリーディング力に影響するかという議論の中では、具体的な例を挙げながら議論が行われた。日本語の文章をものすごく速く読める人が必ずしも心の中で音声化していないと言っていることや、ある少女が驚異的な速さで読むにもかかわらず、その内容を正確に理解できていることがテレビ番組で取り上げられていたことなどの話題が提供され、議論が盛り上がった。
後半の現場での応用の話しでは、高校の先生から、教室での具体的なシャドーイングの使用例が話された。CALL教室ならシャドーイングさせているときに、生徒の発音のチェックもできるが、教室ではなかなか難しいという実際の状況が話され、教室での使用法として機能するのは、発音も教え、意味も教えた後、仕上げとして、シャドーイング形式で一斉に読ませるというものだった。仕上げで読ませるときにシャドーイングさせると、プロソディを意識させられ、また、何度も読むことで頭の中に英語を定着させるのによいだろうということだった。この最後の仕上げとしてのシャドーイングは、中学の先生の中にも試している方がいて、高校の先生と同様な意見だった。
次にある大学の授業でシャドーイング練習を課した場合に浮上した問題点について話し合われた。この授業では、スクリプトも意味も分かる状態で、週1回90分の授業中に毎回30分ほどシャドーイングを行わせたが、そのあとでクローズテストをやらせてもあまりよくできなかった、ということだった。
この状況に対して、その学生たちにはシャドーイングというタスクは重すぎて、意味を頭の中で処理する余裕がなかったのではないか、また、音声知覚を自動化するだけではダメで、それ以外に、語彙を増やしたり、文法を勉強したり、読んだり、書いたりなどの勉強も同時並行でしないと英語力はつかないのではないか、という意見が出た。
また、シャドーイングを授業に採り入れるときのコツとして、必ずゴールを設定すること。例えば、映画のワンシーンを見せて、その登場人物になりきり、感情を込めて英語の台詞を言わせるという方法が紹介された。ただ、この場合も台詞の音まねにこだわってしまうと、意味を考えずに練習する可能性があり、簡単にはゆかないということだった。
大学での授業に関する議論の中で確認されたのは、教材を必ず、i-1またはi-2に設定すること。また、シャドーイングの効果を期待するためには、かなり大量な、例えば、週に20時間程度を半年間続けるというような練習が必要だと思われることであった。
その他にも、授業中に生徒同士でシャドーイングさせている先生から授業での活用例が示された。生徒の音声をモデルとするという意味で問題はあるが、生徒同士でシャドーイングさせると、普段比較的声の出ない生徒でも、積極的に声を出すようになるという報告や、教室で生徒同士シャドーイングをさせることで準備をさせ、別の教室で音読テストをするという活用例が示された。
シャドーイングは、神戸市外語大の玉井健先生やNHK英語講座講師の岩村圭南氏の影響で盛んになってきているようだが、今回の話し合いにより、教室で使う際には、仕上げの読みとして使うのがよいかもしれないこと、また、シャドーイングは音読指導の中のひとつのバリエーションとして捉えるのが妥当であることが確認できた。 
英語力を高めるためには、発音や意味を理解してからであってもシャドーイング練習だけでは不十分で、それ以外にもさまざまな学習が必要であるというのが、参加者の共通した理解であったと思われる。 (早稲田中学・高等学校 井戸聖宏)


第5回 英語教育の「なんでだろう?」座談会 
日時:2007年7月14日(土) 午後3時半〜5時半 
場所:青山学院高等部 第3会議室
テーマ:「リーディングテスト」のなんでだろう?
講師:小林美代子先生(神田外語大学) 
コーディネーター:伊藤泰子(神田外語大学)・箕輪美里(東京学芸大学大学院)

当日は悪天候にも関わらず23名もの多数の参加者を迎え、講師の小林先生と共に有意義な時間を過ごすことができた。座談会前半は小林先生からリーディングテストに関するレクチャーをしていただき、後半には小林先生も交えて参加者全員での意見交換、ディスカッションを行った。あっという間に時間が過ぎてしまい、まだまだ時間が足りないという雰囲気の中での閉会となった。
小林先生ご自身が中高の教員として働いていらっしゃった頃に、「何のために評価をするのだろう?」という疑問を持ったことが研究の出発点となったというお話からレクチャーが始まった。「よりよい読解力テストをめざして」というタイトルでの45分にわたるレクチャーでは、1)テスト作成の条件、2)読解力とは何か、3)テスト作成のノウハウ、4)テスト作成の手順などについて具体例を交えながらお話していただいた。妥当性・信頼性・実用性のすべてを兼ね備えることの難しさや、テストの波及効果の重要性、測ろうとする読解力に応じてテスト形式を変えていくことや、日ごろの授業とテストの内容を連携させることの大切さ、そして実際にテストを作成する際の留意点など、多岐にわたる内容だった。小林先生は、教師は他人を「評価する」という重責を担っていることを真摯に受け止め、自分はテストによって何を測りたいのか、生徒・学生にどのような力をつけさせようとしているのかをまずは考えるべきだと繰り返し主張しておられた。また、第三者(家族や同僚)に自分が作成したテストを見せて、素直に意見を聞くことや良質のテストをたくさん目にすることが、より良いテスト作成につながるというアドバイスもいただいた。
後半の座談会では「定期テストで使用する文章は既習・未習どちらが好ましいか」「良いテスト作成者になるためにできることは何か」「目標とする平均点のあり方」「速読トレーニングなどの継続的な学習活動を評価に取り入れることはできるか」など、様々なトピックについて意見交換が行われた。中・高・大の先生方や大学院生、出版関係の方など参加者それぞれの立場からの意見を聞くことができた。最後に小林先生から、「評価」とは学習者と教師の双方にとってpositiveな機会であって、学習者は自分の力を確認することができ、教師は自らの指導法の改善に役立てることができるというコメントをいただいた。
今回の座談会を通して参加者一同、読解テスト作成についての具体的なアイディアを得ることができたと共に、あらためて「評価」について真剣に考えることができた。 (文責:箕輪美里)


第5回 出張!英語教育なんでも読書会
日時:2007年6月17日(日)15:30〜17:30
場所:早稲田大学 西早稲田キャンパス 26号館302会議室
指定図書:『日本人に一番合った英語学習法―明治の人は、なぜあれほどできたのか―』(斎藤兆史)
コーディネータ:神白哲史(専修大学)・土方裕子(筑波大学大学院)

中学校・高校や大学の先生方および英語教育専攻の学部生・大学院生(計16名)が参加し、活発な議論が展開された。まず参加者が自己紹介をした後、コーディネータによる話題提供が行われた。その内容は、(1) 著者が主張するように、果たして現代には「英語の達人」は存在しないと言い切れるのか、(2) 小学校から英語は教えるべきか否か、(3) 間違った英語は使わせるべきか否か、(4) 日本人が理想とすべき英語力とはどのようなものか、(5) 教育経験の身に付け方について、(6) 学習指導要領が謳っている「実践的コミュニケーション能力」とはどのようなものであり、学校現場ではどのように反映されているか、(7) 英語帝国主義についてどのように感じ、考えているか、(8) 日本人に一番合う英語学習法は何か、(9) 「基礎的な英語力」はどの程度のことができれば身に付いたと言えるか、の9点である。
その後、4-5人の小グループに分かれ、上記9点およびそれ以外に課題図書を読んで気になった点を話し合った。その内容は全体に報告されたが、「著者が推奨する多読や文法解析などの学習法は、現代の学習者を対象に効果があるかどうかを実証する必要があるのではないか」「何を目標とするかによって、適切な学習方法が異なることもある」「小学校でやるのはあまりよくない、という著者の意見も一理あるが、やはり小学校から始めた方がよいスキルもあるのではないか」「著者が推奨する学習法は、出来る人と出来ない人がいるだろう」「明治時代の『達人』は、現代の一般的な英語学習者とはモチベーションの程度が全く違っていたので、同じ土俵で考えることは難しいのではないか」「間違えて初めて身に付けることも多々あるので、『間違った英語は全く使わせない』というのは極端ではないか」「英語帝国主義に関して、英語をそこまでマイナスに見る必要はないのではないか」などの意見が挙げられた。また「達人観」についても参加者から活発な意見が出され、有意義な議論が行われた。


第4回 出張!英語教育なんでも読書会
日時:2006年11月11日(土)15:30〜17:30
場所:早稲田大学 西早稲田キャンパス 8号館104教室
指定図書:『英語習得の「常識」「非常識」』(白畑知彦 編著 大修館書店)第4章〜第7章
コーディネータ:土方裕子(筑波大学大学院)

高校や大学の先生方および英語教育専攻の大学院生が参加し、課題図書の内容に基づいて以下のような議論が展開された。

1.動機づけに関して
・「やろう!」という気持ちはあっても、実際にどうしてよいのかわからない学習者が多い。このような現象は「動機づけ」だけでは説明できないのではないか。
・動機があるから英語を勉強し、その結果として英語力もついたのか、それとも英語力が伸びたことで動機も高まったのか、という因果関係を特定することは難しい。
・「必ずこれ!」という魔法のボタンはない。
・動機が同程度であっても英語力に差がある場合、何が違っているのだろうか。
・担当する学習者の英語力に差がある場合、どうすれば熟達度が高い学習者も熟達度が低い学習者も満足させられるのだろうか。同じタスクを与えるにしても、どのような工夫をすれば両者を満たすことが可能だろうか。
・「受験があるから」という理由で英語に向かわせることができない大学生を対象とする場合、動機づけを高めるにはどのような工夫が必要か。
・達成可能なゴールを(ビデオなどで)見せるのは効果がある。知らない人、達成可能ではないレベルのビデオを見せると「自分には無理」と諦めてしまうので、あまりよくないのではないか。

2.その他
・速聴や速音読の効果はあるのだろうか。
・脳科学研究の結果を英語教育にどのように生かせばよいだろうか。

和気藹々とした雰囲気の中、上記の議題を中心に活発な議論が交わされた。


第4回 英語教育の「なんでだろう?」座談会

日時:2007年2月24日(土)
場所:青山学院高等部
お題:語彙テストのなんでだろう?
コメンテータ:望月正道先生(麗澤大学)

座談会は今回で4回目ですが、会を重ねるごとに参加者が増え、現職教員・研究者・大学院生を含め約30名にご参加いただきました。語彙習得研究の動向や語彙力の定義の紹介から始まり、実際に語彙サイズテストや語彙構成テストを含む様々な語彙テストに解答しながら、それぞれのテストがどのような語彙の側面を測定しているのかについての議論を行いました。更には、パソコン上で受験できる語彙構成テストや認知速度を測るテストについてもご紹介いただきました。ご発表の間にも、語彙サイズテストの妥当性や語彙を広さと深さに分けることについての是非、そして日本語語彙と英語語彙の関係に関する意見や質問が飛び交い、参加者全員が語彙テストについての知見を深めることができた、内容の濃い会でした。(筑波大学大学院生 森本由子)

第3回 出張!英語教育なんでも読書会
日時:2006年6月17日(土)15:30〜18:00
場所:早稲田大学 西早稲田キャンパス8号館104教室
指定図書:『英語習得の「常識」「非常識」』(白畑知彦 編著 大修館書店)第1章?第3章
コーディネータ:井戸聖宏(早稲田中学・高等学校)

中高大の先生方および英語教育専攻の学部生・大学院生が参加し、課題図書で述べられていることをネタに活発な議論が展開された。下記のような疑問に関して様々な発言がなされた。

1.繰り返しの効果は本当にないのか?
課題図書には「繰り返しの効果はない」と書かれているが、果たしてそれは本当なのか?という観点から読書会はスタートした。話題は、パターンプラクティスの経験の有無、近年あまり行われていない理由や背景、パターンプラクティスは実際にどのような形で行われるのか、パターンプラクティスで英語は身に付くのか・身に付かないのか、などに及んだ。

2. 音読で何が身につくのか?
話題は、最近流行(はやり)の音読について移り、一般的な音読推進の流れでは、意味が分からなくてもよい素材を真似して音読するうちに身につくものがある、と言うが本当だろうか。すなわち、内容を理解して音読するのがよいのか、あるいは、内容を理解しなくてもひたすら音読するのがよいのかという話しになった。その中で、年齢と目的によって音読の方法に違いがあり得ることや音読指導体験談などが語られた。

3.誤りは直した方がいいのか?
次に、誤りを直すことに関して議論が及んだ。ここでは、誤りは直しても意味がないのか、という問題提起から始まった。続いて、教師は必ずしも間違いを直す必要はないのではないか。実際に生徒に継続的にエッセイライティングを書かせた感想や、生徒による効果の違いなどが意見として出た後、英文を書かせる練習をさせた以上、教師側としてはどうしても何かしてあげたくなるという意見、また、添削したあと何をさせればよいのか、と話は展開して行った。

4.「習得」とはどういうことを言うのか?
最後は、習得とは何であるかに関して議論が行われた。論文の実験では、短期的な効果を見るものが多いが、半年や一年で指導の効果が出るものだろうか。教室での指導で果たして文法習得までたどり着くことができるのか。学校での指導ではどこを目指すべきか。また、外国で英語を使って生活していた帰国子女が日本に帰ってきて英語ができなくなる場合があるが、結局彼らは英語を習得していなかったのだろうか、と話しは展開して行った。

最後に、参加者全員から今回の読書会の感想や各自が研究上・指導上で関心を持っている事などについて話し合いがもたれた。途中休憩する必要を感じさせない活発な議論が行われた。(報告 井戸聖宏)


第3回 英語教育の「なんでだろう?」座談会
日時:2006年7月8日(土) 15:00〜17:30 
場所:青山学院高等部 北校舎1階第3会議室
お題:発音学習・指導のなんでだろう?
コーディネータ:大關 晋(日本大学第二中・高等学校)
コメンテータ:?橋豊美(駿河台大学)話題提供:「英語発音指導のヒント」

中高大の先生方および英語教育専攻の大学院生が参加し、活発な議論が展開された。内訳的には、院生の参加者(9名)よりも現職の先生方の参加者(12名)が多く、今回の話題が如何に現場に直結している問題であるかを実感すると同時に、主催者側としては大変にうれしく感じた。
座談会前半の45分間、まず?橋先生にミニレクチャーをしていただき、専門家の観点から、様々な発音指導のヒントを紹介していただいた。内容も、単なる理論の紹介ではなく、パワーポイントを用いてのプレゼンテーションで、最新の情報などが盛りだくさんに紹介され、参加者全員が思わず引き込まれてしまった。
後半は、?橋先生のミニレクチャーの内容に関する話題から議論がスタートし、初めのうちは?橋先生が参加者の質疑応答に答える形で進んだが、その後は現職の先生方を中心に、教室場面での実際の指導上の困難点や問題点などが指摘され、同様の悩みを抱える参加者から次々と発言が飛び出し、まさに座談会という雰囲気で進められた。
予定時間を大幅に過ぎてしまったが、沈黙の時間とともに、議論が止むことはなかった。最後の最後まで活発な発言が続けられ、司会としてもどのタイミングで締めをしたら良いのか迷うほどであった。
(報告 大關 晋)


第2回 英語教育の「なんでだろう?」座談会
日時:2005年8月20日(土) 15:20〜16:10
場所:新潟青陵大学
お題:語彙学習・指導のなんでだろう?Part 2
―「教師のなんでだろう?」vs.「生徒のなんでだろう?」―
コーディネータ:高山芳樹(東京学芸大学)・神白哲史(東京学芸大学大学院生)
コメンテータ:八島 等(東京都立晴海総合高等学校)・磯 達夫(東京電機大学)

研究推進委員会は、本年2月に語彙学習・指導についての第1回座談会を開き、同年8月の新潟研究大会研究推進委員企画は、その続編になる。第1回座談会では、教員対象のアンケート結果に基づいて意見交換が交わされたのに対し、今回は、学習者に意見を聞いた結果を用いて座談会が行われた。
Part2の今回も、第1回同様、参加者はグループに分かれて、まだ明かされていないアンケート結果を予想し、その予想結果をグループ間で比較した。今回のお題は、「英単語学習について生徒がもっとも気になっている質問のランキング表の第1位から第8位まで」を与えられた選択肢から選ぶというものである。ヒントとして第9位から第12位までは与えられている一方、選択肢にはダミーが一つ含まれている。どの選択肢が委員会作のダミーかを探し出さなければならない。参加者の先生方は、生徒の気持ちになって英単語学習で気になりそうな疑問を互いにぶつけ合った。
制限時間内でのグループ討議の後、答合わせを行うが、議論が白熱したところは、司会の制止にもかかわらず、話し合いが止まらない。また、正解が発表されたとき、それぞれのグループから「当たった」「当たらない」「正解に一番近い」など歓声があがった。参加した先生方の気分はほとんど生徒だった。コメンテータの八島等先生と磯達夫先生からアンケート結果についての分析をいただいて落ち着きを取り戻した。
コーディネータの高山芳樹先生による軽妙な語りと小道具を使った司会により、座談会は終始和やかにかつ活発に行われた。またアンケート結果と参加者の回答が会場の大型スクリーンにパソコン画面で映し出され、臨場感あふれる会だった。
座談時間の50分間はあまりにも短かい。話し足りないと思った参加者もいたと思うが、会の最後で高山先生がおっしゃったように、散会後が始まりである。会場が議論の熱気を帯びたまま、座談会は幕を閉じた。(報告 山本昭夫)


第2回 出張!英語教育なんでも読書会
日時:2005年10月30日(日) 15:00〜17:00
場所:青山学院高等部 北校舎1階第3会議室
指定図書:『日本語力と英語力』(齋藤孝・斎藤兆史 著 中公新書ラクレ)
コーディネータ:箕輪美里(東京学芸大学大学院生)

中高大の先生方および大学院生が参加し、活発な議論が展開された。あっという間の2時間であった。トピックとしてあがったのは、「音読」「小学校英語教育」「日本の英語教育の目標設定」などである。高校生に飽きずに音読をやらせる方法や、指定図書の中で「意味はわからなくても、本物の英語を音読暗唱させることが英語学習には効果的である」という提言があったことに対し、意味がわからないものを音読させることの是非、モデルとなる音声の質について議論が交わされた。また、「型」の練習も重要だが、実際に話す力を身につけさせるには、やはり「話す」訓練が必要であるという意見がでた。
小学校英語教育に関しては、母語と外国語学習の関係についての議論や、現在の小学校英語教育は学校によって内容がバラバラなので、中学1年生のスタート地点で生徒の英語力に差がついているという問題点が指摘された。
最後に、日本の英語教育の目標設定について議論が交わされた。教育界(文部科学省)が求めている英語力と、社会が求めている英語力のギャップについて、また、他のアジア諸国(中国、韓国など)の英語教育に見られるような、一部の子供たちを英語の達人(エリート)に育て上げるような教育を、日本の社会は受け入れない風潮があるのではないか、などの意見がでた。「英語ができる日本人の育成」という言葉の解釈が一貫していない現状はあるが、教師は限られた時間の中で効率よく英語を教える工夫を続けていかなくてはならないと、参加者一同再認識した。
今回の読書会で話し合った内容は、結論が出ないことが多く、また国の政策などに関わる問題もあった。結論が明らかにならないことで、はがゆさを感じることもあったかもしれないが、様々な立場の人間が英語教育について意見交換をすることで、あらたな疑問点が生まれ、それを明らかにするための研究の種を見つけることができたと思う。(報告 箕輪美里)


第1回 出張!英語教育なんでも読書会

日時:2004年12月4日(土) 17:00〜19:00
場所:立教大学 池袋キャンパス 5308教室
指定図書:『英語は絶対、勉強するな!』(鄭讃容 著 サンマーク出版)
コーディネータ:田辺博史(青山学院高等部)

著者が提唱している「言語を習慣化する」ための5段階の学習法の是非について活発な議論がなされた。英語が外国語である日本において筆者の言うところの「自国語のように外国語を覚える」方法が本当に可能なのか、可能だとすれば学習開始時点で学習者に必要な英語運用能力はどの程度のレベルなのか、学習意欲の低い学習者でもこの方法は有効なのかなど、議論の過程で筆者の主張に対するさまざまな疑問が投げかけられた。「著者が提唱している意味をまったく考えずに音声のみをひたすら聞く学習法は外国語習得にどれだけ役立つのか」、「著者の「暗記は英語習得の敵」という主張は正しいか」など、今後検証が必要と思われるリサーチトピックもたくさん掘り起こされた。(報告 高山芳樹)


第1回 英語教育の「なんでだろう?」座談会

日時:2005年2月19日(土) 16:00〜18:00
場所:立教大学 池袋キャンパス X201教室
お題:語彙学習・指導のなんでだろう?
コーディネータ:神白哲史(東京学芸大学大学院生)
コメンテータ:相澤一美(東京電機大学)

中・高・大の英語教員54名を対象に事前に実施したアンケート調査結果に基づいて、「語彙学習・指導方法」と「語彙学習・指導に使う教材・教具」についての「なんでだろう?ランキング」を研究推進委員会で事前に作成。座談会当日は、それぞれのランキング発表の前に座談会参加者をいくつかのグループに分け、ランキング予想の話し合いをしてもらった。ランキングをほぼ的中させたグループもおり、各グループで参加者の勤務校での体験談を交えた活発な意見交換がなされた。ランキング発表後に、相澤先生より「語彙知識のモデル」「語彙テストの役割」「語彙アクセスのプロセス」などこれまでの語彙習得研究で明らかとなっていることをわかりやすく教えていただき、それを踏まえた上でランキング上位にあがった疑問に対する回答をしていただいた。金谷学会長をはじめ多くの現職英語教員や英語教育専攻の学部生・院生に参加いただき盛会であった。(報告 高山芳樹)